あれ?あのカップル、どうなったんだっけ?
そうそう、たしか女の方が…あ、ダメだ。ちょっと思い出せねぇ。
やべーよ、二十代で早くもボケの兆し?
いやいやいや、たしか先週号は二日酔いで流す様に読んじゃったから、思い出せないだけだろ。読み返そう。
「アレ?」
机の上に置いておいたジャンプが無い。俺、そこまでボケたのかな…。どこに置いたか忘れるなんて。
何気なく床を見たら、ジャンプたちがキレイに紐で結わえられてた。
が縛ったんだな。ってことは、今日が回収日か。時計を見たら、まだ七時くらいだった。
よし、まだ大丈夫だ。メゾギンだけ見たら、また纏めりゃいいんだ。
***
「銀ちゃん!ジャンプ解くなって言ったじゃん!」
「いや、メゾギンが気になってよ。コレは仕様が無ぇって」
「収集車行っちゃうよ!銀ちゃんの馬鹿!!」
先週号だけ見て縛りなおそうと思ったら、まんまと先々週号が気になって、また先々週号読んだら、先々々週号が…それを繰り返していたら、収集車が来てしまったらしく、は菜箸を持ちながら俺に“馬鹿”と言った。
甘ぇな、。俺にジャンプを読ませたくなきゃ、縛った時点で収集場所へ持って行け。
しかし“馬鹿”は無いだろ、“馬鹿”は。仮にも三年、親をやってる俺に向かって。
「ー」
「なぁにー?」
ジャンプを読みながら、俺はを呼んだ。
たまには強く言わなきゃな。ほら、甘やかしすぎると、ロクな大人にならないって言うし。親に対して敬意の念を持って接するように教えるのも、親の勤めだし。
俺は“父親”だからさぁ……。
「お前さぁ…いい加減“お父さん”とか呼べよ」
「ジャンプ読みながら、軽く言うような要望は聞きませんよーだ」
容赦なく却下された。昔から、は俺の事を“お父さん”とは呼んでくれない。やっぱ、お前の親はアイツだけってか。
そう思って譲らないの気持ちも分かる。けどよ、俺だってアイツから、お前を託されたんだから、父親になろうしてんだ。分かってくれよ、この気持ちも。
「馬っ鹿、お前、俺は八割方マジメだぞ」
「じゃあ、後の二割はおふざけ?」
「照れ隠しだっつーの。本当可愛く無えな、お前。反抗期か?」
「ジャンプ読みながら説教されりゃ、反抗したくもなるよ!」
俺はジャンプ読みながらじゃ話を聞いて貰えないのか?いや、普通はそうか。俺も、がテレビ見ながら生返事したりする時はムカツクしな。
は俺との言い合いに見切りをつけたのか、俺が読み漁ったジャンプを纏め出した。
悪いとは思うよ。思うけど、中々読み出すと止められねえんだ、ジャンプ。
ん?なんだ、。今度は腹話術でも始めたのか?俺への当て付けか?構ってくれないとか、話きいてくれないとか…甘えよ。面と向かって言わねーなら、俺も気づかない振りすっかんな。
おいおい、いい加減黙れよ。
メゾギンの流れが掴めねーよ、このノイズじゃ。
本当、もう、黙ってくんねーと怒るぞ。
うん。怒っていいんだな?
俺への宣戦布告ととったぞ、その腹話術は!
「、何ぶつぶつ言ってんだ!ジャンプ読めねえだろーがァァァ!」
「銀さアァアアん!!」
なんか、俺の名前を叫ぶものが、俺めがけて突進して来やがった。当然避けるよな。
突進してきたものは、さっちゃんだった。
なんで、さっちゃんが居るか…は、もう、考えるのも面倒なくらい繰り返されてきた事だから考えないでおこう。
定春に頭を噛まれながら、至福って感じの顔をしてる。本当にMなんだな。
適当にさっちゃんにつっこみつつ、ジャンプを拾ったらが元気が無い顔でエプロンを外してた。
「私…バイト行ってくるね」
「昼からって言ってなかったか?」
今日は“昼からだから朝ご飯期待してて”って言ってたよな、たしか。
「前残業があるから。いってきます!」
「あ、おい朝メシは!?」
味噌汁の匂いが漂ってきているにも関わらず、は早足で出て行った。
味噌汁の吹き零れる音が聞こえたから、俺は台所へと足をすすめて、ガスの火をとめた。
*-*-*
が出て行って、神楽達がまたどっか行って、ジャンプを読みきったら、誰も居なくなってて、俺はアイツが居なくなった日のことを何故か思い出した。…そういや、さっちゃんは、仕事がどうとかなんとか言ってたけど……メゾギンの前にゃ耳も傾けられる筈もなかった。
…にとって、俺は“父親”なんだよ…。
あの日は、アイツ、いつもより愉快そうだったな。
-*-
「はい。よろず屋銀ちゃんです」
「銀時君?」
仕事の電話かと思ったら、アイツの声が聞こえた。
「…なんだよ。お前にゃ、もう連絡しねえっつったろ」
アイツは“ごめんね”と、軽く言った。電話からは、溜め息も聞こえる。
「何かあったのか?」
「うん。これから駆け落ちするの」
その時、の顔が浮かんだ。は、幸せになれるのか?
「…相手は、を可愛がってんのか?」
もしかして、虐待とかあるから、は俺んとこに来てたのか?いや、痣とかは見あたらなかったけど体以外に言葉の虐待もあるし…。
「可愛がってくれると思う。まだは知らないし…それは分からないかな」
「思う?なんだよ、に会わせてねえのか?そりゃ、考え無しってもんだろ」
アイツは笑い声をあげた。なんだよ、が心配じゃねえのか?可愛くねえのかよ?は、すぐに知らない奴と喋れるほど社交的じゃねえ。いや、社交的といわれる奴なんて絶対どっか無理してるとか思うけどよ。
「大丈夫。は連れて行かないから」
「おい、そりゃ大丈夫じゃねえって!」
を放っぽって、駆け落ちなんて何考えてんだ!
「…多分、これからすごく苦しい思いをするの。どこへ行けるかも分らないし。だからは連れて行かない」
「何言ってんだよ。置いて行かれてもは…」
「銀時君。」
アイツが俺の返答を遮る様に言った、俺の名前。それは、ひどく重苦しい雰囲気をまとっていた。
「うちの冷凍庫に焼おにぎりの袋があるんだけど」
「何言いだすの?」
…どんな事を言われるのか構えてたら、冷凍庫の話しをされて拍子抜けだ。
「そこに、の通帳とカードがあるの」
…なんだよ…。本当にを置いてくみてえじゃねえか。
「そのお金で、の面倒を引き受けて欲しいの。」
「何言ってんの?」
「利益としては悪くない依頼でしょ?あ、銀時君の養子で戸籍に入れないでね。多分、後悔するよ」
「……何でを連れて行かねえんだよ」
「女は恋をしたら、ただ、その人の側に居たいものよ。これは女全てに言える事」
「…じゃあ、俺には恋をしてなかったってこと?」
「…恋、出来ると思ってたよ。銀時君は素敵だったから。」
「お世辞はいらねーよ。分かった、分かったから。」
「…本当に素敵だと思うけど。ま、宜しく。は将来有望だよ。家事も出来るし、父親に似てるから美人になると思うし。…紫の上計画も出来ちゃうかもね」
「いや、それは犯罪だろ」
その時、電話越しにアイツの名前を呼ぶ男の声が聞こえてきた。
「…じゃあね。」
アイツの声は、寂しそうだけど暖かかった。
すぐに機械的な音だけが耳を満たす。
しばらくその音を聴いてたけど、の事を思い出した。
家に一人なんて不安で仕方ない筈だ。
アイツの尻拭いになるけど、は悪くない。
になんて言やいいんだよ。最後の最後にこんな厄介な依頼をしてきやがって。
が泣いて嫌がっても、ここまで引き摺ってでも連れてこなきゃならない事に、溜息が自然に出てくる。
に嫌われたくねえなー…。あんなに懐いてくれてんのに。
-*-
結局、その心配は杞憂に終わったんだけどな。
家に行ったら、がアイツからのメモを握り締めてボーっとしてた。
俺が家に入って行ったら、やけに慌てて落ち着きが無くなったけど、俺と一緒に暮らすことは全く嫌がらなかった。
も女だし、ましてやアイツの娘だから、女の事情が分かったのかもな。
でも、それからが大変だったんだよ。がどんどん可愛くなってくから。
親を引き受けた欲目もあるけど、は間違いなく可愛い。
なんつーの…俺が酒を飲んでたら“飲みすぎるな”って言いつつ漬物も出してくれたりしてくれるし。
何気なく、色々してくれる。怒りながらも、ある程度は目をつぶってくれる。
面倒見がいいんだ。もしも今すぐが嫁に行ったりしたら、俺はグレるね。
今のところにはそういう相手も居ないし、そう簡単に付き合わせないけどな。
出来ればと一緒に、ずっと暮らしてえよ。
でも、は絶対そう思って無えんだ。だってよ、親代わりの俺に“ずっと一緒に居ろ”って言われたら、気持ち悪い以外の何者でも無えだろ…。
俺、に嫌われたく無えよ。まだ。
も娘として振るまってるから、それを望んでるんだろう。
俺としては、に「お父さん」って呼んでもらったら、なおのこと“父親”って意識出来ると思う。そうでもして、普段から意識しないと、たまに物凄く可愛く見えて、抱きつきいちまいそうだ。でも、は呼んでくれない。
犯罪者になりそうだよ。なんだ、この生殺し的状況は。
今の状態が何だかんだ言って一番いいんだ。心地いいし落ち着くんだよ。
ぬるま湯みたいなもんだな。
時計を見たら、もう昼近かった。この時間になっても、神楽達が帰って来ないなんて珍しい。
飯を先に食べたら、うるせーから探しに行くか。
*-*-*-*
散歩コースの河原に来ると、が真面目に何かを見てるところに出くわした。
視線の先を確かめると…バカップルがいちゃついてる。メゾギンのキャラにバカップルもいたけど、実際に濃い絡みを目のつく場所でやられると気分が悪いもんだ。
…お前、バイトをサボって出歯亀か?
あんまり真剣に見つめて、いるもんだから隣に座ってみてもは俺に気づかない。少し、切なそうな顔をしてる。
誰だよ。にそんな顔させてんの。
「いいなぁ…」
「良かねえよ。」
思わず、口をついて反対の言葉が出た。
何やってんだよ、俺は。
はビックリして俺を見てる。
何とか切り抜けないと。
「なーにサボってんだ。ウチの生活はに掛かってんだぞ」
「娘の給料を当てにする位なら仕事しなよ…」
は呆れたように言う。あれ、また切なそうな顔しちゃって。
さっきの切ない顔は、俺の稼ぎが少ないのが原因?
うわー、これは堪える。
「仕事来ねえんだよ。無いもんは仕方ねえだろ。さあ、どーする?」
「…頑張るよ、バイト」
はうっすら笑顔を浮かべて、呟いた。まるで自分に言い聞かせる様に。
ツッコミを期待していた俺としては、ものすごく拍子抜けだ。
それに今のの反応だと、将来自分を犠牲にしてでも相手に尽くしそうだ。
そんなヤローが居たら殴っちまいそうだ。
「おまえ…そういう時は“お前が働け”とか言い返せよ。んな考え込むな。」
「うん…」
「あー、俺心配だわ。ロクでもない男には引っかかんなよ」
「私に生活費殆ど出させてる銀ちゃんは、ロクな男なの?」
「その辺は気にするな」
は少し笑いながら、俺に憎まれ口を叩いてくれる。やっぱりはこんな風に、笑ってくれる方がいい。
安心してると、がまたバカップルを見て溜息をついた。少し笑っちゃいるけど、寂しそうな気もする。
なんだよ、やっぱり好きな奴居んのか?
好きな奴とあんな風にイチャつきたいのか?
「あんなん羨ましいなんてもんじゃねーぞ」
「何が?」
「いちゃついてた奴等だよ」
…俺にもしも望みが無いとしても、があんな風になるのは絶対にダメだ。
もし、町でその場面に出くわしちまったら、相手の男をタコ殴りしちまいそうだ。
「大体、いちゃつくのも厭らしい事も、影でコソコソするから楽しいんだよ」
「お母さんとも、影でコソコソしてたんだ?」
おい、。お前、表情も変えないで何言ってんだよ。俺の古傷をえぐりやがって。
俺は、アイツの都合のいい男だったっつーの。金が無いから、よくと一緒に留守番してたんだよ。
別れた後は、が呼びもしねーのに俺んとこ来てくれたけど。
「…アイツとは、してねえよ」
「はい?」
は、何を言ってるか分からないらしい。
いいか?言っても。ももう、これくらいじゃ動じねえ位には大人になったよな?
「アイツは、男に手ぇ一つ握らせねえで貢がせるのが上手かったからな。あ、でも俺は手握ったぜ」
「え…」
は少し困っているらしい。アイツは、の前では質素にしてたし、貢がれてもそれを自分の身につける事も一切しなかったからな。全部質屋行きだ。信じられねえのも分かる。
アイツに近づく男の中で、俺みたいな奴はかなり優遇されてると思う。
今思うと、アイツが俺の事を褒めたのも、全部お世辞って訳じゃなかったのかもな。
「お前も騙されたクチか」
は目を丸くして頷いた。
「ま、子供はいつボロが出るか分からねーからな」
もしも、全部質屋に入ってると知られたら、それこそ修羅場どころじゃねえからな。子供は子供で、注意力が散漫だったりするし。
「…そっか…」
は、少し笑顔になった。なんでだ?
たまに、は不可解な表情をする。そんなとこも、可愛い。
が立ち上がった。
「私、バイト行くわ」
「やっと行く気になったのか?」
は答えもしないけど、笑顔のままで時計を見つめながら頷いた。
もしかして、バイト先に好きな奴でも居んのか?
……だとしたら、俺がきっちり見定めて邪魔してやらねーと。
「じゃ、俺も可愛い娘を送り届けようかね」
それらしい理由をつけて立ち上がると、は少し苦い顔をして俺を見る。
流石に傷つくぞ、それは。
「手、繋ごうよ」
おいおい、それは出来ない相談だぜ。
……ん?今、何つった?“手、繋ごう”?
さっきまでの苦い顔は消えて、少し笑顔で照れた様に手を差し出してる。
なに、嬉しいこと言ってくれてんの。
。お前、本当に可愛いな。だから心配なんだよ、俺は。
いやいやいや、今喜んで手を差し出したら、気持ち悪いと思われるかも。
「お前…幾つになったんだ?」
俺がなんとか冷静に言い返したら、はそんな俺の気持ちも知らずに更に手を差し出してきた。
「いいじゃん。たまには。」
たまには…そうだよな。ずっと手を繋いで無えもん。たまには、いいよな。
「しょうがねえなぁ」
俺が渋々を装って手を出したら、はそっと手を握って俺を見た。少し顔を赤らめて、罰が悪そうに上目遣いをしてる。
なんだよ。やっぱ、恥ずかしいんじゃねえの?それとも、照れてんのか?
でも、離さねえぞ。せっかく手ぇ繋いでんだから。
これがラブ繋ぎってヤツだったら、はどうなっちまうんだろうな…。
もっと照れるんだろうか?
そう思うと指を滑り込ませたい気もするけど、“親のくせに、なにやってんだ。気持ち悪ぃ。”とか思われたら立ち直れないから、とりあえずこのままの手を握っておこう。
銀 魂 一 覧
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2007/07/14