…空がうっすら明るくなるまで探し回ったが、は見つからなかった…。
もしかしたら帰ってるかも知れねえと思って、家の玄関を開けると、味噌汁の匂いがした。
!?
慌ててブーツを脱いで、台所に来ると…が鼻歌交じりで料理を作っていた。が、驚いた顔で俺を見た。

「え?あなた誰ですか!?」

「テメー、なに勝手に人ん家の台所使ってんだァァ!」

「え?ここ、ちゃんの家ですよね!?」

「ここ、俺ん家!の家は、俺の家なの!」

ちゃんと、同棲してるんですか!?…彼氏居ないって言ってたのに…!」

「あー…。もう、いいから。彼でいいから。は、何で料理作ってんだ?」

「いや、昨日酔いつぶれてしまって…。ちゃんに泊めてもらったから、ご飯作っておこうと思って…てか、何で俺の名前知ってるんですか?」

「昨日、会っただろーが。」

「…タクシーを降りたとこまでは覚えているんですが…。すみません、覚えてません…」

は、申し訳なさそうにうな垂れた。
…そういえば、が出てったのは、コイツが何か言ったからっぽいじゃねーか。何言ったんだ。
とりあえず、の襟元を掴んでみる。

「つーかテメー、に何言ったんだよ。コノヤロー」

「はい?」

が昨日飛び出してったっきり、帰って来ねーんだよ」

ちゃんが?帰って来ない?」

「そう言ってんだろ。昨日、帰って来てから様子がおかしかったんだよ。何か言ったんだろうが」

「いや、俺、むしろ昨日はちゃんと話せなかったんですって!」

が情けない声を上げて反論した。

「火の無え所に煙はたたねえんだよ。吐け、洗いざらい吐けェェ!」

「本当ですって!昨日はそのお店で、おかまさんとずっと話込んでたんですから…!」

「あぁ!?」

が、俺の懐を指して弁解してる。
見ると、がビンタと共に喰らわせた紙がはみ出してた。

その時、味噌汁が勢いよく零れた。



*………*



がまさか、あのバケモノの店に行ってたとは…。でもそれで、のあの変な態度は説明つかない。
は俺の娘だって、分かるはずもねーし。血ぃ、繋がってないから。

「つーかさぁ…は本当に心辺りねーの?」

「……ありません…。」

は一瞬びくついた。それ、突っ込めって言ってるようなもんだよな?なぁ?

「おい。何だ、今の間は。しかもそんな一瞬考えた顔しやがって。吐けよ」

「いえ、気分悪く無いんで。」

「何、天然ぶってんだァァ!心辺りを言えっつってんの!」

「言いません。ちゃんが、知られたくない事かも知れないから。俺は、言いません」

…何だよ。さっきからの情けない顔と打って変わって。絶対、の隠してる事と関係があるだろ。

「…てか、ちゃんの彼氏じゃないですよね?」

「あぁ?今はそんな話じゃねーだろ」

が、いきなりさっき片付いたはずの話題を持ち出して来た。
しかも、何でいきなり毅然としてんの?

「ほら、はぐらかす。彼じゃないですよね」

「…彼じゃ無かったら、どうするってんだよ」

「どうもしません。今まで以上に頑張って、振り向いて貰うだけです。」

コイツ…に気がある。
もしかして、がたまに見せる大人びた表情は…のせいか?
…絶対、コイツには渡さねー!

「ほら、やっぱり言い返せない。彼じゃ」

「彼ですぅー!!れっきとしたの彼だから!風呂だって一緒に入った事あるからァァァ!」

「何恥ずかしい事言ってんの!?銀ちゃん!」

玄関からの声が聞こえて来た。は物凄い剣幕でこっちに来る。
が…帰って来た。

「何、昔の話持ち出して来てんの。あれは、お母さんと一緒に混浴の温泉に行った時の話でしょ!?」

「事実は事実だろ」

「だからって、さんにお風呂入った話とかしないでよ!恥ずかしい!」

「あの、ちゃん…そこまで突っ込んで聞いてないから安心して。ね?どの辺りから聞いてた…?」

は少しそわそわした。何だ、のヤツ。バレたら困るのか?

「え、銀ちゃんが私の“れっきとした彼”とか言ったとこからですけど…」

「そっか…あ、昨日は泊めてくれてありがとう」

は、にだけ顔を向けて礼を言う。

「え。そこは、俺にも礼を言うべきところなんじゃないの?」

「ああ。ありがとうございます。」

「おいィィィ!明らかに適当だろ、それ!」

の野郎!の前だと態度をコロっと変えやがって。

「あ。すみません。俺、仕込みがあるから行かないと」

は立ち上がって、荷物をとった。

「じゃ、ちゃん。またね。あと、銀さんも」

「はい。気をつけて」

「俺は“また”なんて無えからな」

「いいですよ、別に。銀さんの好きで。」

うわ。にこやかに嫌味を吐きやがる。絶対、コイツ性格悪ぃ!

が玄関から出て行ったのを見届けて、俺はに話しかける。

「…どこ行ってたんだ?こんな時間まで。」

「……お登勢さんのとこ。」

「何だよ。んな近く、思いつかねーよ…。探し回ったんだぞ…」

「………ごめんなさい」

「…で?俺に不満あるんだろ?この際だから、聞いてやる。昨日のじゃ訳が分からねえよ」

は、少しおどおどしながら口を開いた。

「……不満じゃないけど…。私、銀ちゃんの性癖とか今まで、全く知らなくって…それで、昨日はびっくりしてたの」

「は?んな事、お前に言ったか?いや、言って無えよな?」

「うん。私がショック受けると思って今まで言わなかったんでしょ?」

「…まぁ、確かに…」

の体は、今どんな感じになってんのかなー…とか必死に想像しながらジロジロ見てた事がバレてんのか!?
いや、視線だけで、具体的な事が読み取れる訳無え。落ち着け、俺。

「大丈夫だよ、私。銀ちゃんがどんな性癖を持ってても驚かない。安心して、お店行っていいよ。私も、お金貯めて指名しに行くから…。もう隠さないで、堂々としていいんだよ?」

「ちょっと待て!何?店?お前が昨日行った店の話!?」

「うん。銀ちゃんの女の子の格好、自信を持っていいと思う。私、キレイだって思ったもん!」

ちょっと待て…俺が昔、バケモノのところで女装してたって、何でバレてんだ?

「……は、何で俺が女装してたって知ってんだ?」

「かまっ娘倶楽部のパンフレットに載ってたの。」

は机に置いてあったパンフレットを広げて、俺とヅラが踊ってる写真を指した。
あのやろー…勝手に写真使いやがって。

「…で。俺に女装癖があると思ったってか?」

「うん。…違うの?」

「違ぇよ!これは、昔、そこのバケモノに拉致られた時に、無理矢理働かされた時のだよ!間違っても、自分から化けちゃいねえ!!」

「でも、水が合っちゃったって事は…」

「無い無い無い無い!無いって!!」

「…なんだ…。良かった……銀ちゃんが女になっちゃったらって思ったら悲しくて…でも、銀ちゃんの生きる道だから、認めなきゃって…」

が、少し鼻声になりながら、目を潤ませた。
やっぱり、は可愛いとこあるなぁ。

俺は、の頭に手を置く。

「…俺は、が悲しむような事はしねえつもりだよ。今も、この先も。」

「銀ちゃん…」

「それに、今まで自分を押し殺して来たつもりも無えけど、と一緒に居るためにやってる事なら余裕で釣りが来るから。は、これから先もそんな事気にすんな。な?」

の目から勢い良く涙が落ちた。
声をあげて泣きだしたから、思い切って抱き寄せてみた。

思い切り着物を握って泣き出して、久々に思い切り感情をぶつけてくれたを、やっぱり愛しいと思う。

出来れば、親としてじゃなく、男として包み込んでやりたい。



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2007/12/02