「正美君?」

正美君は、道路の向こう側の、体格のいい女性と子供を見ていた。
私の脳みそは、過去の記憶から、1枚の写真を引っ張り出す。

“夏子はん”

道路の向こう側の人は、夏子さんに似てる。それに、子供もいるらしい。絶対に、正美君は向こう側の女性と夏子さんを重ね合わせてる。

「まぁーさぁーみ君!!」

「な、なんや、、急に大声出して!!」

「他の女を見てるからよ」

「あほ言え。そんなわけあるかい」

夏子さんとは、私と出会うよりも大分昔に別れてしまったらしいけど、今でも正美君の心に深く根を張っている。

「はいはい」

「なんや疑うとんのか」

「正美君の性格知ってるからなぁー…」

あえて笑顔をつくって、正美君の腕に擦り寄ってみた。

「こ、公衆の面前で、なに寄って来とんじゃ」

正美君が、顔を真っ赤にして、腕を振り払おうとするので、安心する。
この調子でワガママを言ってしまおう。

「正美君が、を一番愛してる、って言ってくれたら放してあげる」

「なに言うとるんや…!」

その、ギョロってした目!今は、私のために表情を崩してくれてるって、実感できるその顔…それが見たかった。

そして、思い切って、胸を強く押し付けてみる。

…あ、あい…」

「なに?なに?」

正美君の目は、いよいよグリグリ動き出して顔もさっきより赤く、ブルブルしてる。

「えぇい、ヤメや!なんでドブス相手に言わなあかんのじゃ!!」

正美君は、愛の言葉を放棄してしまった。

でもいいのだ。正美君の「ドブス」は世間一般で言う「キレイ」。好きな男に言われるのは辛いけど、最近はポジティブな事も考えられる様になったし……それに……。

正美君は、無理矢理に私を引き剥がそうとしない。
それに、ドブスって言った時に腕を自分側に引き寄せてくれた。

それだけで今は充分、幸せ気分になれるから。

夏子さんは、もうすっかり心の中には居ない……って騙されてあげる。


腕にいっそう絡みついて、正美君に甘えた。

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2007/1/7