「でけぇ声出すなよ。おじさん明日も早いんだろ」
てっきり、埼玉県内の高校だと思ってたのに…県外!!
うちはお金持ちじゃないから、さすがに神奈川までは追いかけられないかも…。
「なんで、また神奈川に…埼玉だって強い高校あるでしょ?守が入ったら甲子園だって…」
守は、不敵にわらった。あの腹立たしい位に似合う“ウフフ”って声を出して。
「神奈川に、すごい奴がいるんだ」
「山田…さん?」
「あぁ」
「でも、そんなすごい人なら、甲子園とか大きい大会に出るでしょ?」
「…俺は、でかい舞台に出るなら山田を倒してから出たいんだ」
「…守らしいね…」
やっぱり、守はスケールがデカい。甲子園なんて何とかして出たいし、出来るなら厄介な相手には当たらないでスムーズに出れた方がいいって、普通は考えるだろうに…。やっぱり、近所で仲良しなだけの私が、いつまでも傍に居たいっていうのは出来ないのかな…。
「どうした?急に小っさくなっちまって」
「どんどん遠くなってくなぁって思ってさ」
「何言ってるんだ?」
「完全試合を次々にやっちゃって…、置いてかれた気分なの」
「」
「あ、ごめん。しんみりしちゃったね。私は守のこと、どんなとこ行っても応援するから」
守は私を見て…見詰めっ放しで…、胸がどんどん早く稼動してってる。なんか、笑顔がどんどん維持し辛くなってきてる。変な顔したら寂しいってバレちゃうよ…。
深めに息を吸って守を見ると、やっぱりこっちを変わらない眼で見てくれていた。
私も変わらない眼になってると思う…。
無言の時間が出来上がってる。
「…が応援してくれるなら、心残りは無ぇや…」
「えっ…?」
沈黙を破ったのは守だった。
何?今の言葉、どういう意味なんだろう…。
「…が応援してくれるかが分からなかったからな」
私の表情を読み取って、守が言葉を発してくれた。
そして、また帽子をかぶって窓を開ける。
「知らねぇだろうが、この前の来なかった試合、落ち着かなかったんだぜ」
“じゃあな”と呟いて守は窓の外へ降りた。
守の足音が聞こえる。家に帰るんだ…。
私も、言わなきゃ。窓から身を乗り出して。
「守」
守が振り返る。
「応援するに決まってるよ!私は、守の野球してるとこ大好きだから!!」
守は、口角を上げて帽子のつばを触った。
…同じ学区じゃなくても、きっと、守を追いかけ続けるよ…。
*終劇*