――夕日の射すみち――
夕日の射す道。私は途方にくれて電柱にもたれかかった。
道端で座り込む私は、きっと柄が悪く映る事だろう。この10Kgの米袋さえ抱えてなければ。
住宅街の真ん中、こんな健全な時間にタクシーが通り掛かる訳もなくて、余計にどうしようもない気分になる。
「はぁ〜…」
いつもならあと5分位の道が、今日は後どの位かかるんだろう。
動きたくないなー…と思ってたら、足元のオレンジ色の柔らかい光は消えて、薄暗くなった。
顔を上に向けると…。
………………
誰が、居た?
→【年下だけど、頼れる子】?
→【年下で、なついてくれる可愛い子】?
「さん?」
ご近所の和君が居た。
私はその意外性にびっくりしてしまった。
ここ数年は、年賀の挨拶の時しかまともに顔を合わせてない。
和君は桐青に入ってから部活で遅いので、夕暮れ時に鉢合わせる事は無いと思っていたのだ。
「和君…」
「こんなトコに座り込んで…大丈夫か?」
和君は心配そうな顔をして、私を見下ろす。
野球の名門、桐青の制服に身を包む和君はとても逞しく頼もしそうだ。
「疲れちゃって…」
和君は、私の抱えた物を覗き込む。
ビニール袋が、かさりと渇いた音をたてる。
「うわ、米だ。しかも10Kg!?これ、一人で持ってたのか……」
「うん。お母さんに頼まれてさ」
「おばさんも無茶するなあ…」
和君は苦く笑って、ビニール袋の取っ手を結ぶと、「よっ」という掛け声とともに肩に担ぎ あげてしまった。途端に重さから解放されて、寂しくなる私の膝。
「帰ろうか」
和君は、私の手をとって立たせてくれた。
私が立っても、まだまだ上にある身長。
大きくなったんだなぁ…。
躊躇いなく優しい。
いつまでも私より小さいつもりでいたのに。和君の体は厚みを帯びて、腕もいつの間にか筋 が走るようになっている。
男の子なんだ。男の人だったんだ。
夕日の射す道。私は音をたてる心臓にひやひやしながら歩いた。
頬が紅いのは、夕焼けのせいだ。違いない。
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私の中で、和さんは米(20kg)を二袋は軽々担いで、助けてくれそうなイメージです。
キャッチャー贔屓な性格なので、いつもキャッチャーを見つめてしまいます……!
しかも、逞しいタイプの捕手ですもの、和さん……!
【また電柱にもたれ掛かる】
「じゃん。どうしたんだよ?」
出た…。
昔から生意気な態度で近所に棲息する、利央。
絶対、昔から呼び捨てなの。
「…“ちゃん”でしょ」
「今更何言ってだよ。兄ちゃんだって“”って呼んでるし、ちゃん付けしたら逆に…うっわ 」
利央は自分の二の腕を押さえて、寒そうな仕種をした。それはやっぱり、むかつく。
呂佳はいいんだ。同い年だし。私を女扱いしない事は痛いほど身に染みて分かってしまった。高校三年間で、そりゃあもう、痛感だよ。
でもさ『まだ利央は』『せめて利央は』…とか希望が捨てきれない。
…昔から男前とか、男らしいと言われるような私でも、誰かに女の子らしく扱って欲しいんだ。
「…そうまでして私を男にしたいの?目障りなんだけど」
とりあえず、現時点で女扱いしてくれないなら用は無い。
「んだよ〜!んな怒んなって。」
利央は私を見下ろしつつ、何で怒られるか分からないといった顔をした。
「今日は疲れてるの。あんたなんかの悪態に付き合ってらんない」
とりあえず、米を抱え直して立ち上がる。
スーパーで入れてもらったビニール袋がカサカサと騒いだ。
少しよろめいたのは、無視して欲しい。
「何でそんな事言うんだよ?」
「…っ。利央が嫌なこと言うからだよ…!」
「何、ムキになってんの?」
私は、よろよろしながら家の方向へ向かう。当然、仲沢家も同じ方向で…。
「待てって」
利央もついて来た。
「持ってやるって!ソレ」
「いいえー?…天下の桐青野球部のベンチウォーマー様にそんな事させられませーん」
「…でも、よろけてるぜ?」
「いいの!私だって持てるから。この位!」
強がったはいいが、やっぱい歩きづらい。
その証拠に、歩幅も稼げない。
もしも…もしも、通り掛かったのが呂佳だったなら…。
「あーあ。呂佳なら有無を言わさず、肩に担がせるのに…」
つい。比較するつもりもなかったけど、無意識のうちに比べてしまってた。
「…んだよ…。いつも、兄ちゃん、兄ちゃんって…」
確かに、今のは大人げない。利央だって力比べで負けたら、いい気はしないだろう。
「…ごめ」
「!それ、貸せ!」
「へ?」
私が反論するより早く、利央は米袋を奪い、肩に担いでしまった。
私がぽかんとしてると…利央は得意げに、少し眉をしかめて笑った。
「どーだ!これでも、桐青の捕手なんだからな。驚いたか!」
そう。驚いて声もでない。
利央、こんなに逞しかったっけ?
私の中では、まだ…幼いままだけど、考えを改めなきゃいけないかな?
少し見直しかけてたら、利央の肩から、米袋が落ちた。
ビニール袋の口を結んでおかないからだ…。
途端に、見直そうという気分も覚めていく。
「…りーおーうー…!」
「ごめん、まじで!」
「うちの主食を粗末に扱うんじゃない!この馬鹿!!」
「痛えっ!!」
思いきり、向こう脛を蹴ると、利央は相当痛かったらしく…患部をおさえてしゃがみこんだ。
…やっぱり、まだまだ子供で、放っておいたらいけない。
ビニール袋に米袋を入れ直して、片方の取っ手を利央に差し出す。
「?」
「…半分くらいはもってくれる甲斐性、あるでしょ?」
そう言うと、利央は何故か笑って取っ手を掴んできた。
「おう!一人でだってもってやるよ」
「それは、いいや……。また落とされても嫌だし。気持ちだけ、ね」
夕日の射す道。
勢いよく手を振って歩いてしまう幼なじみが、可愛くて仕方なくて…溢れ出してくる笑いを抑えて歩いた。
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利央君は、可愛いですよね。生意気な所なんか特にたまりません……。
前へ前へな性格も好きです☆
【また電柱にもたれ掛かる】