……結局、四時にセットしたアラームは早過ぎて、私はいつも通りに起きてしまい、お母さんにワガママ言って送って貰うはめになった。しかも……お母さんが炒り卵とハムでサンドイッチもどきを持たせてくれて、教室ではあるけど朝ごはんはなんとか食べられる事になった。
朝練が終わって教室でひっそりサンドイッチを食べていると、野球部の子たちがワイワイしながら入って来た。
「ハヨー!お、の美味そう!一口くれ!」
田島君が、目からダイヤモンド並の光を出せるんじゃないかってくらい純心そうな顔で寄って来た。
「え……いいよ」
私が食べかけのサンドイッチを出そうとしたら、田島君が「ギャ!」と言って後ろに下がった。
見ると、泉君が田島君の襟を掴んでいる。
「田島、むやみに間食すんなよ」
「えー?いーじゃん、一口!」
「ダメだって。つか、田島、宿題まだあんだろ」
「あ。そーだった。三橋、やろーぜ」
田島君が三橋君をつれて自分の席に急いで向かう。
私も昨日宿題やんないで、来てからやれば良かった……。そうすれば、もしかしたら起きられたかもしれないのに!
悶々としながらサンドイッチを口に運ぶ。
「はよ」
泉君の声が上から降って来た。
すぐに飲み込めなくて、口を押さえて挨拶する。
「ふぉはふょ」
「いや、喋れないなら食べ終わってからでいいって」
苦笑いして、まだ空いてる隣の席に腰掛けて鞄からプリントを取り出す。
私は、なんとか口の中のものを飲み込み「おはよう」と言い直した。
「今日はごめんね。起きれなかったよ」
「いや、謝んなって。それより、ここ分かるか?」
「あ、うん。ここはカッコに硫化鉄が入るよ」
「あー……そっか、思い出して来た。サンキュ」
泉君はプリントに私が言った事を書いて、再び鞄に入れた。
「あ、そうだ。昨日は、これ、ありがと」
泉君に傘を渡そうとしたら、田島君が「泉ー、ここ分かんねー」と言ってこっちに来た。当の泉君は、心なしか眉をしかめてるように見える。
どうしたんだろう?
田島君が私の手の中の傘に気付くと、不思議そうな顔になった。
「あれ?何で泉の傘、が持ってんの?」
「昨日、貸して貰ったの。急に雨降って来たじゃん?」
「ああ、何だ。それで昨日、タオル取りに行って来んの遅かったんだな!」
「え。昨日、そんなに遅くなっちゃったの?ごめんね」
私が謝ると、居心地悪そうな顔をしてから、泉君は手を左右に振った。
「ちが……わないけど、そこまで遅れてないから、気にすんなって」
泉君は、やっぱり優しい。だって、気にさせまいとしてくれる。
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08/10/18 UP