「ごめんくださいまし」

来た。



週に1回。彼女は表れる。文具屋の女主人。

「ご苦労でごぜいやす。さん」

「沖田さんも。お勤めご苦労様です」

一般の人間が屯所をおいそれと歩くのは好ましく無え。所内は付き添いが要る。さんの来る日は見回りもサボって門の側で昼寝。完璧でぃ。

印刷紙・筆・万年筆・ボールペン…それぞれを確認していく。
週1回で来て貰っても、纏まった需要がある訳じゃ無え。さんはどうやって生活をしてるってんだ。彼女の左手の薬指には、いつも指輪がはまってやがる。旦那か?旦那が稼いでんのか?

「儲かってますかぃ?」

「ぼちぼちでございます」

柔らかく笑って、さんは息を吐いた。

「今日の所は…よさそうですねぇ」



今週もさんとの時間が終わっちまった。

「送って行きやす」

「カゴで来てますのでお気遣い無く…ありがとうございます」

いつも通りに、門の外に消えて行く彼女。



…でも、旦那が居ようが居まいが、俺ぁ、屯所以外でもさんを見てえんだ。なら、需要を作るっきゃ無え。

コピー機を見たら丁度、山崎が使っていた。

「おい、山崎」

「はい」

「土方さんが呼んでたぜ」

「?分かりました」

心あたりがないからか、腑に落ちねえ間抜け面で山崎が土方のヤローのとこへ走ってった。モチロン嘘に決まってる。

枚数を100から1000に変更。
どっかのデカイ役所で要らなくなった機械だからか、業者並の枚数も楽に刷れる。



「沖田隊長ー。副長、呼んでませんでしたよ…って、何、これ!!」

「テメーがミスったコピーの山でぃ」

「うそおぉぉぉ!?俺、100枚しか刷ってないっですって!!」

「まぁ、落ち込むな。紙の補充は俺がやっといてやるから」

残り900枚のコピー済み用紙は、ミスコピー用の箱へ。
そして…。



さんの店に来た。さんの店は、中々人の出入りがあり、店員も雇っている様だった。

「すいやせん、さんは」

「あぁ、はい、ただ今。」

少しして、さんは店員と一緒に出てきた。店の中のさんは、いくらか落ち着いて見える。

「まぁ、沖田さん。どうなすったんですか?」

「コピー用紙を買いに。ウチのミントン狂いが、ミスコピーを900枚も作りやがったんでさぁ」

「それは大変だったようで…。すぐご用意致します。」

さんは、少し俺を見つめた。俺の心臓は規則正しく、早めに動く。
静かさを湛えた優しい目に見つめられるのは滅多にないから、緊張しちまう。これだけ澄んだ瞳をした女は滅多に居ねぇだろう。
俺を見つくした後で、さんは笑窪を作った。

「せっかくいらしたんです。お茶でも飲んでいって下さい。」

さんに笑顔で誘われて、断わる奴ぁアホだ。
さんについて行き、客間と思われる部屋へ通される。
程なくして、お茶を従業員が持ってきて、さんはにこやかに受け取った。

指輪が光る。

「指輪…旦那さんからですかぃ」

「あぁ、これ。文化が開けて来たと言っても、まだ珍しいですからねぇ。」

さんは指輪を見てるが、指輪の向こう側も見てる。ひっかる表情だ。

「ハイカラでしょう?こういう事、好きな人だったから。もう、ずいぶん経つんですけど…」

「だった?」

「もうとっくに終わった人なんです。けど、どうにも外せなくて」

少し困った様に、静かにさんは笑った。

「…じゃあ、今は独り身ってわけですかぃ?」

「はい…恥ずかしながら」

俺は茶をすすった。さんを手放すなんて、勿体無え事するヤローも居たもんだ。






さんの所から紙を買って、来た道を振り返った。

さんは、まだ、手を振っていてくれる。
領収書を握った手で手を振り返して、それに応えた。

好きな男が居る女ほど、惚れさせた時は感慨も一入ってもんでぃ。


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2007/1/7