私のお慕いする人は、局長さん。仕事先の一番偉い人…。
勤め先の人にこんな気持ちを持ったままで仕事をするのは、正直、好ましくないと思う。
仕事に徹しなきゃと思う。
でも、やっぱり私は近藤さんを見ると嬉しいし、話が出来た日は疲れも忘れて明るい気分になる。
そんな近藤さんにも、好きな人が出来た。
「このまえ、仕事帰りのお妙さんを送って行こうとしたら、殴られちゃったよ…そんなに、俺って気持ち悪いのかなぁ」
…あまり、上手くは行ってないみたいだけど…。
洗濯物を干しながら、近藤さんの話に耳を傾ける。
「…恋なんて、機会がものを言いますから…話しかける時を見計らえば、大丈夫ですよ」
頑張って、当たり障りの無いコトを言う。顔は隊士の皆さんの寝間着に面してて、私の泣きそうな顔は、近藤さんにバレる事はない。絶対に…。
「じゃあ、今度は出勤する時に送ってみるか!」
いや、そういう事を言いたいんじゃないんだけど…。
「頑張って下さい!応援してますからね」
言葉だけは精一杯元気なものを選んで、次の洗濯物のしわを伸ばす。
「ありがとう!ところで、ちゃん…最近、俺の洗濯物だけ干す場所が違うみたいだけど…」
「…近藤さんは、局長だから別格なんですよ」
本当は“オジサンの匂い”がして来たから、家政婦の皆からの意見で、洗浄作用が強くて良い洗剤で洗濯しているのだけど…。普通に洗っても気にならないのに、皆も神経質だと思う。
「ははは!そんな、気を遣わなくていいって」
そう…私が好きなのはその笑い声。疑うなんて、考えられそうにないところ。
近藤さんと話して、その心の真っ直ぐさに感動し、知れば知る程惹かれていった。
「ちゃん」
「はい」
洗濯物に向かいながら返事をする。
「最近、目を見て話さなくなったなぁ」
「そうですか〜?」
目をみたら、近藤さんをお慕いする気持ちが膨らんで、苦しくなるから見ないようにしてるんです。
「そうだよ」
「うーん、私は変わってないつもりなんですが…」
洗濯バサミを摘んで、シャツを挟み込んだ。
「ほら!前なら、洗濯物干しててもこっちをチラって見てくれてたって」
「そんなこと、気をつけて生活してないしなぁ…」
“好き”って言ったら、きっとあなたは困るから…。これは近藤さんのためなんです。
「もしかして悩みある?」
「悩みのない人なんていません」
手にした洗濯物を、力を込めて振った。パンッと快い音が鳴って、皺が消える。
「もしかして恋の悩み?」
干す動きが続けられない。たしかにその通りだし、慕ってる人に言い当てられたのだから…。
「えっ、当たり!?隊の奴らなら協力出来るよ」
…血が、頭が、熱い気がする…。とってもイライラしてしまい、洗濯カゴを思い切り抱えて、中身を近藤さんめがけて思いっきり放った。
真っ白な洗濯物に塗れて、近藤さんがポカンと口を開けてる。
「隠し続けようと思ってんのに…ちったぁ、気ぃ遣えぇぇぇぇ!!!」
そして、居たたまれなくて、呆然としてる近藤さんを置いて屯所から飛び出した。
屯所を飛び出して、あと少しでお昼なので、今日は外で食べる事にした。
いつもは行列が長すぎて入れないお店も、本格的な昼時前だから店の外に2・3人並んでるくらいだ。
…………。
列に並んでから、ものの5分でいつもの長蛇の列になってしまった。
人気の店って、やっぱり混むのも早いんだぁ…。
「おっ、」
声の方を見ると、沖田隊長がにこやかに立っていた。
「沖田隊長」
「こいつぁついてらぁ。一緒に飯食ってもいいですかぃ?」
「えぇ。構いませんよ」
お店の中は、かなりの人が居て、従業員さんもせかせか動いていた。
注文を済ませて、水を飲んでいると、沖田隊長が口を開いた。
「近藤さんも機会に恵まれねぇが、も恵まれねぇや」
「…聞いてたんですね」
「今日は物干し場で昼寝してたもんでね」
沖田隊長はさらっと言って、水を飲んだ。サボってたのに、この罪悪感の無さって…。
「で?も諦めるつもりはないんだろぃ?」
「…そうですね。キライになんてなれません」
「近藤さんも同じだぜ?姐さんを諦められねぇ。ダメだって思うまでは、ストーカーもやめられねぇ」
“ダメだと思うまで…”。私、悪あがきしてない…。
「…そういえば、近藤さんはなんであんなにお妙さんを…」
「が近藤さんを“おっさん臭”ごと受け入れた様に、姐さんはケツ毛ごと近藤さんを肯定した。機会が合う合わねぇだけで大差は無ぇや」
「それも、気付いてたんですね」
「勤務態度を見たら、すぐ分かるってもんでぃ」
…何だか嬉しくなった。近藤さんの好きな人は、ケツ毛ごと肯定してたのかぁ…。
「ま、ためになる話をしたんでぃ。ここはの奢りで」
「別に、昼1回位ならいいですよ。」
沖田隊長が、私をマジマジと見た後に、ぽつりと言った。
「…俺好みじゃ無ぇ事は確かだぜぃ…」
「はいはい。Mじゃないですからね、私は」
途中で沖田隊長と分かれて、屯所に帰ってきた。
まず、さっき放ってしまった洗濯物を干さなくてはと思い、物干し場へ来たら…。
皺は伸ばされていないけれど、全部物干し竿に掛かってた。
「あ、ちゃん。お帰り。」
振り向くと、近藤さんが腕まくりをして立っていた。
「近藤さん、もしかして干して…」
「山崎の寝間着とシャツは皺だらけだけどな」
近藤さんは豪快に笑い飛ばして、皺だらけの洗濯物を見た。
「それより、さっきはごめんね。気に障る事言ったみたいでさあ…」
「あっ、いいんです。私、頑張る事にしましたから。」
「そうかぁ!応援するよ」
…でも、協力は必要無いんです。
私が頑張って、納得した落ち方をして欲しいから…。
精一杯の笑顔で、近藤さんを見つめる。
「おっ。目、合わせてくれるんだね」
モドル
宜しければ感想を下さいませ♪メール画面(*別窓)
2006/12/29