**************************マヨの騎士10



土方さんは、何も買わずに出て行った。

上手く笑えてたかな?
もう、安心してくれたかな?

ちゃん、交代の時間だよ」

「あ!はい」

「…今月いっぱいだけど、辛くなったらまた戻っておいで」

「ありがとうございます」

…恋は叶わなかったけど、仕事環境にはめぐまれた。
でも、だけでやっていけるように…頑張るから、ここには戻らないつもりで行く。


*-*-*


引っ越しの準備を始めたら、目まぐるしく時間が過ぎていった。

犯人はみつからないし…不安はいっぱいだけど、よろず屋さん達はよくやってくれている。犯人は捕まえられないけど、私が一人で襲われないように、神楽ちゃんを寄越してくれた。

ごはんは…作るの大変だけど、廃棄弁当をありったけもらって凌いだ。
とりあえず、無事に引っ越しを済ませたい。

最後の荷物に封をして、溜め息をついた。

土方さんに片思いしてた自分が染み付いた部屋…。引っ越したら未練は無くなるだろうか。
ぼんやりしてると、神楽ちゃんに声を掛けられた。

ー!早くしないとバイト遅刻アル」

「ありがと!すぐ行く!」



誰も居ない店内で、商品を並べ直してたら、店長が近付いて来た。

「最後だね」

「はい。お世話になりました」

本当に…シフトでは助けて貰えて…店長が居なければは続けられなかった。

「…グラビア辞めるつもりないの?」

「何言い出すんですかー?」

笑って店長を見た…店長は無機質な表情をしたまま私を見ている。

「…どうかしたんですか?」

「このまえも、グラビアは辞めろって忠告してあげたのに…」

「え…」

怖い!いつもの店長じゃない!!
怖くなって、店長から離れようと踵を返した。
でも『忠告』?あまり想像したく無い事を想像してしまう。

「どこへ行くんだい?」

制服の裾を掴まれて、バランスを崩して棚にぶつかる。お菓子がいっぱい落ちた。

「なんで、こんな事するんですか…!」

精一杯すごんでみた。だけど店長は、全く動じない。

「…バイト入った時から好きだったんだよ。好きな子の肌は誰にも見せたくないからね」

腕を掴まれて、関係者入り口に向かわされる。
怖い!怖い!怖い!

「いやだ!離して!!防犯カメラだってあるんだから…証拠になるんだから!!」

「そんなもの、さっきカメラをオフにしたから心配ないんだよ。ドアも閉めたし。さぁ、言う事きくように躾直さなきゃ」

気持ち悪い。さっきまではなんとも無かったのに、急に吐きたくなってしまった。

「放してっ!いやァァァァァっ!!!」

願いを込めて、叫んだ。

“ゴンッ”

もうダメかと思ったら、ガラス戸の衝撃音が聞こえた。

人が来た!
助かるかもしれない…。

ガラス越しに見えたのは…。

土方さんだ!


土方さんは咥えタバコをしてドア近辺を見てる。

お願い…!!気付いて!!助けて!!!

土方さんが煙を吐くと同時に店の中を見た。

目が、合う。

打ち抜かれたような…そんな顔をしてる。

必死に、目に力を込めて、店長の手を振りほどこうと身体を揺さぶった。
「チクショっ、大人しくしろって!!」

店長に、思いっきり頬を殴られ、口の中に血の味が満ちる。…助けて…。

“ドオゥッ”

という音がしたかと思ったら、火薬の匂いと、煙が充満してきた。

「なっなんだぁ!?」

店長の力が弱くなった。今しかない!
店長を酒瓶コーナーに突き飛ばし、私は正反対の雑誌コーナーへ向かう。
落ちて割れる酒…。

「待てっ…」

店長がこっちに来ようとした…ら。

私の傍に風が吹いた。

土方さんが刀の鞘を横にし、店長の喉元に当てて再び酒の棚へ店長を押しつける。また酒が落ちた。

酒と火薬で、何とも言いがたい匂いが満ちる。

「随分な趣味じゃねぇか…女殴るなんて」

土方さんの声は、今までに聞いた事ないくらい低くて、ゾクっと背筋が緊張するほど、私に響いた。
店長は、喉元を押さえ付けられて苦しいらしく、弱々しい抵抗しか出来ていない。

「おい、連れてけ。現行犯だ」

バズーカらしき物を抱えた男の子が入って来て、私を見て目を丸くした。

「こいつぁびっくりだ。土方さんの妄想…」

「違うっつってるだろーが!!早く拘束しやがれ!」

「へぃへぃ」

手際よく店長の腕に手錠を掛けると、無言で引っ張っていった。

私は、足が笑い出して、床にへたり込む。頬はじんじんして、熱い。
明日の撮影、どうしよう…。

と考えていると、土方さんが屈んで私を覗き込んだ。

「大丈夫か?」

「…はい…」

「訳分んねーだろうが、一緒に来い。事情聴取がある」

「え、私も?」

「当たり前だ。当事者だろーが。」

土方さんの言葉に“なるほど”と思い、膝に力を込めるも立ち上がれない。

?」

「あ…いえ…何でもないです。」

腰が抜けた状態とはこの事だろうか…。なんとか立ち上がりたいと思い、力を入れても…ダメだ。

「腕、動かせるか?」

「あ、はい」

私の返事を聞くと同時に私の腕を自分の首に掛けた。

「土方さん…?」

「肩掴め。腕に力入れろ」

言われた通りに力を入れた…。土方さんが腰と膝に腕を回して、私の身体は浮き上がった。

「しっかり掴まれよ」



そのまま、私はパトカーまで運ばれた。



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2006/12/11