**************************マヨの騎士11
真選組で、まず、手当してもらった。腫れは、すぐ引くでしょうとのこと。…撮影は…明日、腫れが引くならメイクでなんとか出来るとマネージャーさんから電話で励まして貰えたので、不安は和らいだ。
現場で、マネージャーさんも頭を下げる事を考えると心苦しいけれど…私も頭を下げる時は、心の底から謝ろう。
事情聴取を受けても、どこか人事みたい…自分の事じゃないみたいに感じていた。
店長を信じてた分、店長のした事が信じられない。
この町最後の日だけど、殺風景な部屋へ帰る気がしなくて、真選組のベンチから動けなかった。
「おい」
声で分かる。土方さんの声が降ってきて、顔を上げた。
「ん家を教えろ。送るから」
「…帰る気分じゃないんです。」
土方さんは頭を掻くと、隣に腰をどっかりと降ろした。
「…いつまでも居られねえぞ」
分かってる。でも、動く気が起きないのだ。どうしても…。
「なぁ…」
隣でカチッとライターの音がして、煙が横目に見えた。
「昼飯まだだから、付き合え」
*-*-*
近所の食堂に連れて行かれ、土方さんに倣って隣に座った。
「土方スペシャル1つ…っと、は何食うんだ?」
土方スペシャル?土方さんは常連なんだ…ということは分かるけど。
「サラダをお願いします」
「腹に溜まんねぇぞ」
「一応、被写体なんで」
「そうか…あと、食後にアラレとマヨネーズ。」
アラレとマヨネーズ…相変わらず食べたりするんだなぁ。
「はいよー」
そして、店のご主人も全く動じないで注文を受け付けた。
なんだか懐かしい。昔に戻ったみたいで。土方さんが京都から居なくなった後でも、友達を誘ってマヨネーズにアラレをつけてよく食べてたっけ。
1人で食べるアラレとマヨネーズは、寂しくて、切なくて…江戸に来てからは自粛してたけど。
「…引越し前の思い出になるか分かんねえけど…」
土方さんのポツリとした声が、私を物思いから引き戻す。
私の方は見ていない。けど、声は私に向かってる。
「昔みてえに、アラレ摘みながら話そうぜ」
「…はい…」
何を迷う必要があるのだろう。全く迷わないで同意した。
私はサラダ。土方さんは…マヨネーズ丼…と言っても通じる様な土方スペシャルを黙々と食べ終わり、アラレが出されるのを待った。
「へい。お待ち」
食べ終わったのを見計らってご主人がアラレと小鉢にこんもりのマヨネーズを食卓に置いた。
そして、私と土方さんを見て、ニコニコとしだした。
「旦那も隅に置けないねぇ。こんな若いお嬢さんと昼飯なんて」
「残念だな。こいつぁ、そんなんじゃねえよ」
…やっぱり言われると傷付くなぁ…。やっぱり、まだ好きで…諦められなくて…想いはまだ死んでない事を痛く感じる。
だけど、そこは、何とか笑顔で大丈夫って思わせなきゃ!笑顔は、幸い仕事で作りなれてるから…朝飯前。
「そうなんです。残念な事に」
撮影スマイルをご主人に向けた。
「…お嬢さん…もしかしてちゃん!?」
「ご名答です。」
「嬉しいなぁ。あのちゃんが食べに来てくれるなんて…あ、サイン貰っていいですか?」
「私で良ければ、喜んで」
「今、色紙持って来るね」
ご主人がいそいそと店の奥に行くと、土方さんが私をまじまじと見て呟いた。
「本当に有名なんだな」
「…もっと有名になれる様に頑張ります」
土方さんは、煙草に火を点けた。初めて会った日と変わらない点け方。
いちいち再確認してしまう。私はかなり重症の恋の病なんだろう。
「…怖くねえのか?」
煙とともに吐き出される言葉は、少し意味が分からなかった。
「え…何がですか?」
「今日、現行犯で引っ張った奴とか…。売れたら、ストーカーに遭う可能性も無くはないだろ」
土方さんの言葉で、再生スイッチが押された。店でのやりとりが、鮮明に脳内で再生される。
「今、話す事じゃねえな…」
「…そうですよ。食べましょう!!」
………。
そして、やっぱり、私達は無言でアラレを頬張るのだった。
土方さんとアラレを無言で食べてる内に、やっぱり、引越しの荷物を放って置く訳にいかないと考えられるようになり、帰ろうと思えた。
「…私、帰ります…荷物心配だし」
「…なら、送る」
多分、土方さんに送って貰うのは最後なんだろうから、お言葉に甘える事にしよう。
色紙のサインも済ませて、後は、会計するだけ。
着々と恋の終わりは来ていて、足音も、私には聞こえるのだ。
あぁ…泣きそうだよ…。
*-*-*
店を出てから、涙が出そうな目に力を入れて歩く。
一歩踏み出すたびに視界が滲むから、大変居心地が悪い思いをする。
「」
「え…はい」
土方さんが喋りかけてくれたって上の空。返事は、気の無い声の高さで響く。
「…弁解になっちまうが、昔お前と茶を飲んでた時は恋だの愛だの全く考えなかった。」
「そうですよね」
やっぱりか…そりゃあ、あの時振られた時点で分かっていたことだったけれど。
改めて確認した傷を誤魔化すために、必死に笑ってみる。
「…だから追いかけてくれた事に、後ろめたさを感じたんだが…同時に嬉しいとも思った」
土方さんを見上げる。やっぱり、私の背は伸びたとはいえ土方さんには遠く及ばない。
成長は見て分からなくても、嬉しいと言ってくれた事が、私は嬉しい。
「…コンビニでに、全然気にしてないみたいな態度とられた時は…正直ムカついた」
「えっ!!」
何でそうなるんだ!?安心させようと思って、頑張ったのに…。
「…が俺を好きじゃないってのが、分かんねえけど堪えんだよ」
いや、そう言われても…。だって土方さんの中で、私はずっと子供で、恋愛対象にはならなくて…その結果の行動だから…。
「…分かんねえか?」
「へえっ!?」
考えていたので、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「…を、女として見てるってこった」
「え…それって…えっと…」
「…傷つけちまったが…一から始めねえか?」
土方さんはこっちを見ないで、言ったけど…耳が真っ赤なのを確認した。
「それって…土方さんを好きで居ていいって事ですか…?」
「何度も言わせんな」
気付いたら…土方さん黒い隊服が目の前にあって、二の腕に土方さんの腕が当たる。背中に、土方さんの手。
今までの全てを許せそうな気分。恋って…すごい…。
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2006/12/11