「…、テメー何してくれてんスか」
「仕事でございます」
私の足下には、今回の仕事で切った男たちが転がって居る。
前方に来島さん。私よりだいぶ離れた後ろに高杉様。
「テメーは、晋助様の護衛だっつってんだろーがアアァァ!何度言ったら分かるんスか!!」
「ですが、向かって来るものだから…来島さんを抜いて」
来島さんが、怒り心頭といった表情でこっちに来る。男たちを跨いでこっちに来る。そんなに大股だと、パンツが見られてしまうのではないだろうか?仕留め損ねるようなヘマはしていないつもりだけど。
「だから!晋助様の側を離れずに仕事しろっつってんスよ!」
「お側に居たら、心おきなく戦えませぬ」
私の刃を振り回して、切っ先が高杉様にあたったら本末転倒。高杉様は、そんなものにあたるヘマはしないと思うけれど。
「何、何言ってんスか!?護衛は離れないって昔から決まってんだよ!!!」
来島さんと二人で仕事する時は、こんな言い合いにはならない。なるのは、高杉様が同行する時だ。
言われる内容は同じなので、ただハイと言って終わらせればいいのだけど、それも癪だ。
だから反論をしては、仕事中に延々と言い合いをしてしまう。
「…おい」
気付くと高杉様が、すぐ後ろに来ていた。いつの間にか煙管を取り出して、火をつけている。
「先を急ごうぜ」
吐かれた煙を合図にしたように、来島さんは走っていった。
「…高杉様…。」
「なんだァ?」
高杉様特有の、喉で笑うような声を出して、また煙管を咥えた。
私は来島さんが進んでいった方向を見て、前から思っていた疑問を吐き出す。
「私は護衛に向きませぬ。護衛から外し…」
「出来ねぇなァ」
高杉様は煙を吐いて、また不思議な笑い方をした。
「何故ですか?私の戦い方は場所をとります…守りの剣術ではございませぬ」
家の剣術は激しく動く割に、体や力の働く流れに逆らわない。極めると舞っているように見えるのだと祖母から聞いた事がある。祖父の太刀さばきは凜として力強く、見た人は必ず惚けた顔で溜め息をもらすのだと。
動であり静と言われるが…父や兄を見る限りだと、動きに溜めが多く、剣を勢いよく振り回しているようにしか見えない。はっきり言って、動一辺倒の剣技だろう。
そんな激しい戦い方で、万が一に高杉様に当たったら深い傷は免れない。
「俺は、守られるつもりなんて無えよ」
「…それでは、護衛など意味がないでしょう?」
「くくっ…、お前は分かっちゃいねえな」
高杉様は相変わらず、にやついている。
「お前の剣は見てて退屈しねえ」
それは、そうだろう。勢い良く、流れにまかせて剣を振るのだから。滑稽だろうと思う。
私の身につけた剣術が普通のものであったなら、こんな引け目は感じなかったのに。
そもそも、剣術指南の家系に生まれなければ、普通の女として生きていたのに。
何故、後々目の仇になるのに剣術を、父は叩き込んだのだろうか。
「火の粉くらいは自分で払うぜ。お前は気にせず俺の側に居りゃあいい」
「…なんか、口説き文句みたいですね」
“気障な”という言葉は飲み込んだ。
「そう思っても構わねえよ。お前はお前なりに俺を守れ」
「…かしこまりました…」
そう。私の復讐を果たすには、高杉様に死なれては困るのだ。
命を賭してでもお守りせねば。
君主にあの世で会った時に、せめて手土産として幕府への痛手を持って行きたい。
「…心頭滅却して、高杉様の護衛を致します」
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2007/04/26