幕府の犬たちを少しでも減らす為に、今日も地道に駆逐作業に励む。
私は落ち着くために息を吸い込み、片膝を少し屈伸させ構えた刃を上向きにする。動かない私に、敵は手本で予測出来る動きで切りかかろうとした。相手の脇腹が空きそうだ。先ほど上向きにした刃を勢いよく振り上げ、その流れで刀の重さと腕の遠心力で自ら回転する。
「ぐぁ…」
敵から少し離れることが出来たので体勢は整えやすい。だが、この距離に甘えてはならない。今度は勢いよく地をけり全力で脇腹に突き刺す。
突き刺して前に出たら、また敵が迫っていた。急いで敵から刀を抜き、刃は横に持ち替え、私は回転しながら敵を切り付ける。
悲鳴。切った手応え。刀や体の動き。
全部繰り返しだ。
何十回目かの手応えで私の視界を遮るものは無くなり、剣を敵から抜くと血が溢れて錆びた匂いが広がっていた。
倒した敵を見ると、揃って青白い顔をしている。
何人かは生きているだろう。だが、絶対立てない程度には急所を攻撃している。
「見事ですね」
柱の影から武市先輩が顔を出した。
武市先輩はあまり戦いたがらないので、その分私が働かなくてはいけない。正直な所、一緒に仕事をするのは憂鬱だ。
「隠れるくらいなら、来なければいいのではないですか?」
「あまりに戦わない者は、時に睨まれますからね。たまには戦わないと」
無表情に言い切って、こちらに来た。
「猪女なんかと一緒に行くと口うるさく“戦え”と言われますから、これからもついて行くとしたらさんでしょうね。宜しく頼みます」
武市先輩は分かっているのだろう。
私は新参者だから、いつも文句は言わない。しかも、高杉様の護衛もするので幹部クラスの人に囲まれてて…不満も言い辛い。来島さんにはうっかりと言ってしまうけど。
だから、生贄に私を選ぶのだろう。
正直、武市先輩は苦手だ。
時々、小さい子を息を止めてるんじゃないかと思うくらい、静止して食い入る様に見ている。
その姿がなんとも言えず、悪寒が走る。
「さん、剣は誰に習いましたか?」
子供好きというだけで、あんなに死んだ様に見入るだろうか?やっぱり、普通の子供好きとは違うのだろうか?
「さん」
「何でしょうか、武市ヘンタイ」
「…ヘンタイではありません。フェミニストです。フェミニスト」
思わず、来島さんの口癖がうつってしまった。考え事をすると、人は無防備になりやすい。
「申し訳ございませぬ、武市ヘンタイ」
「…いいです、もう。剣は誰から習いました?」
「父からにございます。」
父から習ったが、自分のやりやすいように型や動きは所々変えている。
厳密に言うと流とは異なるのかもしれない。
「…先代ではなく、現頭首ですか?」
「はい。現家頭首…父でございます。」
元々、父は剣術に向いてなかったらしいが、努力で何とか道場を切り盛り出来る位の腕になったそうだ。祖父が凄すぎたから、父の腕が立たない様に世間では言われているが、父は標準的な流の腕は持っている…はず。
「…それはそれは…もしかしたら、さんも候補に上がるかもしれませんね」
「何の候補でしょう?」
「機械兵器…まぁ、まだ、方々の職人を探している状態ですが。機械を扱う武器となると洗練された戦闘技術を持った器も必要ですからね。」
機械…。それは、いい事なのだろうか。悪い事なのだろうか。
「…私は…この刀以外は分かりかねます。私の力のみでは目的は果たせませぬが、せめて己の強さは自分で磨きとうございます」
武市先輩が私を見据えて、息を吐いた。
その顔は、子供を見つめている時みたいで息が詰まる。
「そうですね…さんが、もう少し幼ければ完璧なので、私も断固反対派に回ったでしょう。完璧な美しさに、付け足しなど不要です」
……武市ヘンタイは、私の子供時代を想像していたのだろうか。論点がずれている気がする。
成長した私で、本当に良かった。
心の底から、そう思った。
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2007/05/30