潮の匂い。身にぶつかって来る風。
生まれてから、君主に仕えるまで暮らした街が近い。
久しぶりに帰って来た故郷だが、私はこれから家に盗みに入る。

一昨日、武市先輩より指令が来た。
“機械兵器の資料集め”という名目で、流の極意書も参考にしたいらしい。
極意書は、頭首しか読むことを許されておらず、頭首と次期頭首しか在りかを知らされていない。
だから、私が選ばれたのだろうけど…。

、早く歩かねえと日が暮れるぜ」

…高杉様も、何故か一緒なのだ。

「構いませぬ。日が落ちてから家に忍び込みますので。高杉様は宿でお休みになっていて下さい」

「何だ?俺が足手まといなんて言うんじゃねぇだろうなァ」

高杉様が口の端を吊り上げながら笑う。

「いいえ。ですが、高杉様が動く程の事では御座居ませぬ」

「面白そうだから、流の道場が見たいだけだ。手は出さねぇよ」

「大将がわざわざ小事に関わるなど、感心出来かねまする」

「堅苦しいなァ…」

高杉様は、煙管を取り出して雁首に煙草を詰め、火を乗せて燻らせる。いつも思う事だが、気怠い物がなんて似合う方だろう。吐き出した煙すら、当然な顔をして青空に溶ける。

「ま、とりあえずも宿へ行こうぜ。荷物位は置きてぇだろう?」

そうだ。とりあえず下着と偽造手形を持ってきたが、忍び込む際は身軽で居たい。



*………*



家がある町の隣町に宿をとった。私が帰って来たと気付かれない為だ。高杉様とは、同じ部屋。男女二人で歩いているので夫婦という事にした方が自然だろうし、何より、宿代も二部屋とるより安上がりだ。

「お前は、同じ部屋で良かったのか?」

高杉様が、私の前に腰を降ろして聞いてきた。

「はい。良う御座居ます。それとも、今更“嫁入り前の女が”とでも仰いますか?」

もし“嫁入り前の女が…”と言われたら、本当に「今更」だと思う。
嫁入り前の女は、剣を鬼の様に振るわないし、もっと、たおやかさを備えているが、私にはそれが無い様に思える。
私は復讐の為に剣を振るう。その心構えと積年の劣等感のせいで、たおやかでは無い。だが、君主の復讐が少しでも出来るなら、女らしくなくてもいい。

「なら、こういう事になってもいいってのか?」

「こういう事?」

視界に入って来た天井。それと、高杉様のしたり顔。
肩を押さえられていて、足の間に割って入られているから、そう簡単に拘束は解けないだろう。
確かに、こういった事も、嫁入り前の女は感心されない。

「何のつもりでしょうか」

「さァな…だが、こうなった時に、する事は一つだろ」

「さようですか」

別に、いい。復讐を決めた時から、まともな女の生き道など興味は無い。それに、復讐の手だてを与えてくれた高杉様になら、純潔を捧げてもいいだろう。私の純潔に価値があるのかどうかは別として。

「構いませぬ」

体中の力を抜いて、高杉様を見詰める。
しばらく、互いの顔を見合ったら、高杉様が私から離れた。窓際に腰掛けて、煙管を取り出す。

「高杉様?」

「くくっ…、お前はやっぱり大したタマだなァ。全く動じやしねぇ」

高杉様は、可笑しそうに私を見遣った。
男は…基本的に種を撒き散らしたい生き物だと聞いた記憶はあるが…とりあえず、私は純潔を捨てなくて良くなったのだろうか。

「致さなくて…宜しいのですか?」

「その気じゃ無ぇ女を抱いても退屈だろ」

高杉様の、先程の何か企んだ様な顔は落ち着いている。私は、やはりどこかに張られた緊張が緩んで行くのを感じ、息を吐いた。さすがに、踏み込んだ事の無い事は、勝手も分からない。

「そうさなァ…がその気になった時ゃ、相手になってやるぜ」

この問いには、どう答えるべきか。
私が思考を巡らせていると、高杉様が煙草を入れた袋を覗き込んで私を見る。どうしたのだ。

、煙草が切れちまった。買って来い」



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2007/11/08