さて!今日は、実際にグンマ様のお守り…いや、助手をやってみる日だ。
そして、今日も、隊長の夕飯リクエストは“肉”。なんか、もう、今日は思い切って魚にしてしまおうかとも思う。

ちゃん!おはよーう」

「おはようございます」

「今日はシュークリームを用意したからね!」

…あぁ!おやつの話だ。

「シュークリームの為に、今日も頑張ろうね!」

「は…はい!」

グンマ様に言われると、シュークリームのために頑張らなければと思えてくる。



……お昼休み……一日の半分しか過ごしてないのに、ものすごく疲れてしまってる。
グンマ様は、言動は子供っぽいけど仕事はキッチリして…それはもう、専門用語のオンパレードで、見てて素人の私は全く付いていけなかった…。
お昼は、お弁当を持ってきたけど、どこで食べようか迷ってしまう。
ここは植物が見当たらないので、外に出て食べる気がしない。
かといって食堂へ行ったら、女性団員の居ないガンマ団だからジロジロ見られるだろう。廊下を歩いたり、開発課に居てもそうだったし。
でも開発課の中じゃ、まだ馴れてないから食べたくないし…どうしようか…。

さん」

「はい!」

開発課の人が、入り口を指して話しかけてきた。

「お呼びが掛かってますよ」

開発課の人はやけに笑顔で腑に落ちないけど、私は“ありがとうございます”と答えて席を立った。

ドアへ行くと誰も見当たらず…廊下に出て辺りを見渡す。

「あれぇ…何なの…」

ちゃ〜んっ」

「きゃああ!」

後ろから抱きつかれて、悲鳴をあげてしまった。何!何なの、本当に!こんな事する人は1人しかいないけれど!

「一緒に食べようぜ〜」

頑張って身を捩ったら、やっぱりロッドさんだった。

「驚かさないで下さい…」

「ドキドキがなきゃつまらないしょ?」

……平然とこんな事が出来るロッドさんは、ある意味尊敬してしまう。

「船に戻るんですか?」

停留させてる場所からここまではちょっと歩く。いや、かなり歩く。だから、皆の分のサンドイッチを置いて出勤した。また船に戻るのは大儀だし…それに、今日はタイトスカートじゃなくて、少しフレアなスカートを履いてしまったから布が足に纏わりつく。

「ううん、持ってきたから外で」

「外って、アスファルトと金属だらけじゃないですか?」

ちゃ〜ん、自然は緑だけじゃないんだぜ?空が気持ちいいんだって」

ロッドさんのヘラヘラスマイルを見ると、自分の気が進まないことも“いいかなぁ”と思えてしまう。

「…じゃ、外行きます。お弁当持ってきますね」

ロッドさんの腕から抜け出して、再び開発室に戻ると呼び出してくれた人が親指を立ててウィンクしてた。あぁ、恋人同士と思われたんだろうなぁ…。
開発課の中も、こんなノリの人が居るならうまくやっていけそうな気もする。



外に出ると風がそよそよと私に向かって来て、本当に気持ち良い。海を見ながら食べようということで、ロッドさんと隣り合って水平線を眺めている。

「やっぱり、ちゃんのサンドイッチって最高〜!」

「昨日のハンバーグも、そう言ってくれましたね」

…言ってみて気付いたのだけれど…ロッドさんは一番多く私の料理を褒めてくれて、大抵のものは笑顔で食べてくれた。その明るさに何回救われただろうか。きっと食事の度にだから、数え切れないな。
温かい気持ちになって、顔がにやけてきた。

「ありがとうございました」

「え、何で。作ったのちゃんじゃない」

サンドイッチを頬張るロッドさんの顔は、少し落ち着いて見える。きっと私の思ったこと、意味したことを気付いてるんだろう。その顔は“分かってる”ってこと?でも、何で話を逸らすの?素直にお礼言おうと思えたのに…。

ちゃんさぁ…風、好き?」

悶悶と考えていたら、ロッドさんが突拍子もない事を聞いてきたので、慌てて答える。

「あ…好き…?だと思います」

「じゃあさァ、風が吹いたら思い出してよ。今日のこと」

「何でですか?」

さっぱり意味が分からない。ロッドさんが分からないのはいつもの事だけど、馴れる事は出来ない。

「何でも〜。」

そして、ロッドさんは、いつものヘラっとした笑顔でまた海を見た。

「俺、心配だよ。ちゃんがこんな狼の群れで働くなんて〜」

ロッドさんが言うのか。それを!

「油断ならないセクハラ魔人が近くに居たから、その点は平気です」

「俺は、い〜の。狼になりきらないから」

「何言ってるんですか。際どいボディタッチの数々、忘れたとは言わせませんよ」

「忘れるわけないじゃん。そんなもったいない!」

…ダメだ…。ロッドさんは、私とは物事のとらえ方が違うんだ…。目を細めて、じとっと見つめる。

「そんな顔も好きよ〜?笑ってくれたらもっと嬉しいけど」

「はいはい、ありがとうございます」

とりあえず、昼休みには限りがある。お喋りもいいけどお弁当もしっかりと胃袋へ納めなければ。大きな口で頬張って、急いで動かす。

「早食いは胃に悪いぜ〜?」

“胃に悪くても、下っ端は時間厳守!”と心の中で叫び、目で訴えた。

「ごちそうさまでした!」

全てを胃袋へ納めて、立ち上がる。

「え〜!?もうちょっといいじゃん」

「ダメです!研修期間だからこそ、早めに戻らなきゃ。じゃ、また船で。」

「マジメなんだから。」

ロッドさんも立ち上がった。

「マジメが取り柄な国で育ちましたから」

私はロッドさんより前を歩き出す。そのとき、下半身がやけに爽快になった。

「きゃあぁああっ!?」

いきなり強い風が吹いて、スカートが捲れ上がっていたのだ。慌てて抑えたけど、明らかにもう遅かった。

ロッドさんが口笛を吹いた。

「ププッピドゥ〜!」

何、呑気な事言ってるんだ!
恥ずかしくて恥ずかしくて、顔が高熱を出した。その顔で、ロッドさんを睨む。絶対、見た。見られた。

「…ちゃん、俺の力知ってる〜?」

「…力って、銃火器の扱いとか戦闘術の事ですか?」

「んー、残念。」

ロッドさんが、片手を上げながらウィンクした。

「羅刹風」

顔に優しい風が当たる。熱い顔には丁度いい…って、え!?

「さっきの風、ロッドさんなんですか!?」

「当たり〜っ!だってちゃん、いきなり素直になって反則だったし」

万国ビックリな風変わり美男子が集まるガンマ団…ロッドさんも何かあるのかと思ってたけど、まさかこんな超常現象じみた事が出来るなんて…。

「…今日は、ロッドさんの夕食はありません!」

「やっぱそう来たかぁ〜!!?」


*-*-*-*-*-*-*-*


今日は、野菜炒めとスープにした。あとは野菜スティックで誤魔化されてくれ、と切実に思う。
一人で黙々と野菜を切っていると、頭のてっぺんに衝撃が走った。手元が滑って、親指に衝撃が走る。

「痛ぁっ!!!」

「おい、夕メシは肉っつったろーが」

隊長の声とともに、頭に触れているものも動く。また顎を乗っけたな。

「野菜炒めに肉入れるんです。隊長のせいで手元狂ったじゃないですか!!」

振り向いて、さっくりと血を流している親指を隊長に突き付ける。

「んな控え目な肉は要らねえんだよ。もっと肉をメインにしたヤツ作れ。」

「今から路線変更出来ません…。指を切ったのは無視ですか?!」

隊長は、私の親指を一瞥する。

「やわなこと言ってんじゃねぇよ。舐めときゃ治る」

全く悪びれた様子がないので、怒るよりも先に呆れが来た。仕方ないので、キッチンペーパーを千切って親指を押さえる。

「今みたいに料理の邪魔して、お母さんに怒られなかったんですか?」

「いや…うちは母親居ねえからよ」

…また大失言をしてしまった…!そういえば、隊長の親類の話は聞いても、親の事を聞いた事はなかった。
そういう話が出ないということは、触れられたくないという事だ、きっと。

「すみません」

礼をして、恐る恐る上目で見てみたら、隊長は目を丸くして私を見ていた。

「何言ってんだ、?そんなん、気にするタマじゃねーだろ。」

「だって、親御さんの話は聞いた事なかったし…」

顔をあげて、隊長の目をみて言う。触れられくない事は詮索しないように気をつけてたのに。…気持ちがペコペコと音を立ててへこんで行く。

「本当、どーしたんだよ。オメー」

隊長が心底おかしそうな顔をして、いつもみたいに髪をワシャワシャと音がするくらい撫でた。

「まぁ…楽しい話って訳じゃねえからよ。かといって、気にする事も無えけどな」

「隊長…」

「家事やってるとこ見ると母親が居たらそんな感じかとも思うがよー、は母親にゃ見えねぇんだよなァ…」

“ま、複雑な男ゴコロってヤツだ”と言って、隊長はキッチンから出て行った。

多分、隊長からしたら、私は娘に近い感覚なんだろう。

だけど隊長は、一体何がしたかったんだろうか…?


*-*-*-*-*-*-*


ここに来て3日目。
正式な異動まではまだ半月はある。特戦部隊にも特に仕事は入っていないから、しっかり研修を受けられるのだ。今日はグンマ様のお付きはせずに、昨日私を呼びに来てくれた男性から専門用語からシステムから…色々を聞いている。“多分、さんは滅多に使わない事だから、覚えるのが大変だろうけど…”と男性は苦笑いしていた。
…だけど、覚えたらカッコイイだろうな!スペシャリストの仲間入りって感じで。

「おー!ちゃんと勉強してんなァ」

「これは。ハーレムさま!」

男性が敬礼した。

「今は別にそんなん、やんなくたっていいぜ。」

「はっ!」

、勉強してっかぁ?」

隊長が、私のノートに目を落として、難しい顔をした。当然だ。私だって、半分も理解出来てないんだから。

「…はい!分からない事ばっかりだけど…分かるようになれたら素敵だから頑張ります!」

「そうか…しっかりやれよ」

隊長がポンと、私の頭の上に手を置いたので、何故か故郷の父を思い出した。何故だろう?
隊長は、そのまま開発課を出て行った。

「さて、では、お昼までにキリのいいところまで終わらせましょう!」

「はい!」



彼の授業が、子守唄または解読不可能な呪文に聞こえてきた頃、昼を告げるベルが鳴った。“とりあえず、午前中はここまで”の言葉を聴きとり、一息吐いて、私は筆記具を片し始める。

さんも、お辛いでしょう。今までのお仲間と、1人離れてガンマ団に残るなんて」

「いえ。ここに特戦部隊が来た時に会えるから平気です」

「…ご存知ないんですか?」

「何がでしょうか?」

聞き返したけど彼は何も言う気がないらしく、しきりに首を振っている。

「いえ、なんでもありません。忘れて下さい。さん、お昼は…」

彼は話題を変えてくれたけど、気になって仕方がない私は開発課を飛び出した。
そういえば、皆やけに優しかったり、ちょっかいかけてきたり…いつもと少し態度が違ってた。気持ち悪いぐらいに…。船に戻れば、みんな居る。だけど皆、素直に話してくれるとは思えない。
誰か…誰か、事情を知ってそうな人は…廊下を走っていたらキンタロー様とグンマ様が見えた。
一目散に駆けて行く。

「キンタロー様!グンマ様!」

キンタロー様は、私の大声にも動じず落ち着き払って振り向いた。グンマ様は驚いているようだ。

、廊下は走るな」

「そうだよー。どうしたの?」

「申し訳ございません…。恐れ入りますが、聞きたい事があったので…」

「何だ?」

「…私の異動と特戦部隊について、お話を伺いたいんです」

ちゃん、そんな事きいて…」

「分かった。話そう。」

「キンちゃん!」

グンマ様が困った様に、キンっとした声を出した。それほど、まずい理由なのだろうか…。

「グンマ、そう大声を出すな。いずれは分かる事だ」

そう言って、キンタロー様は私を見据える。その視線は、背筋に悪寒が走るほどの力強さがあって…一瞬震えてしまった。
でも、震えてしまった位では聞き逃したら絶対に後悔する。

「特戦部隊は、ガンマ団追放が決定した」

「追放…!?」

「そうだ。特戦部隊の戦い方は荒過ぎる。新生したガンマ団では、かなり問題だった。何回か警告したのだがな…」

「あの…何で特戦部隊なのに、私には異動辞令が来たんですか?」

それなら、私も一緒に特戦部隊と追放される筈だ。

「ハーレム叔父さまが異動させろって言って来たんだよ」

グンマ様が、おずおずとキンタロー様の陰から顔を出した。

「隊長が…?」

ちゃんは、安全に生活させてやってくれって…シンちゃんに言ってた」

…攫われたときの事を、気にかけてくれてたの…?

「失礼します…ありがとうございました!」

早く真相を聞かなきゃ。そして、言わなきゃ…皆と離れるのは嫌だって。


*-*-*-*-*-*


「おーい、の荷物は出したかァ?」

「OKっスよ〜」

「CDと酒が、意外に多かったな」

「…………ん……」

に対しては過保護でしたね」

マーカーが、珍しく優しそうな顔をした。隊長は、いつも通りの顔だけど愉快そうだ。

「ったりめーだろ。女の子とリキッド(男の子)とでは育て方が違うんだよ」

ちゃんの荷物を滑走路の安全な場所へ運び出した。
もう、ちゃんには会えない…。そう「絶対」にって思うから切ないんだろう。
また会える。でも…やっぱり生活が一緒じゃないっていうのは寂しいなー…。いつの間にこんなにちゃんに執着する様になったんだ?
ダメだ。ちゃんの荷物が見えると、別れの決心が鈍る。中に入ろうとしたら、隊長が受付を見ていた。

「どうしたんスか?」

「…が採用試験受けた時、あそこまで走ってたなって思い出してよ」

“頑張ってきます”と言って、走っていったあの顔…遅刻ギリギリだったからか、それとも緊張か…とても不安そうな表情をしていた。そんな顔も、今は微笑ましく思える。

「仕事も楽しそうだったし、安心して去れるぜ」

「…もうすぐ出発ですよ〜?早く乗りましょうや」

俺は自分の思い出に蓋をして、中へ乗り込んだ。


*-*-*-*-*-*-*-*


受付まで走って来て外を見た時、異変に気付いた。
飛行船が動いていて…見覚えのある家具が受付から見えたのだ。ウソ!もう、みんな行っちゃうの!?
必死に足を動かす。パンプスが片方脱げて…ストッキングで滑走路を全力疾走した。足、痛い…!でも、追いつかなきゃ。

「隊長ー!マーカーさーん!!Gさーん!」

叫んでみる。もしかして、聞こえて止まってくれないかと思って。

「ロッドさーーーーーん!!!」

喉が痛い。胸も一層痛い。涙が出てきた。
余計に苦しい。

もう一方のパンプスが滑って、バランスを崩した。

スローな世界…お腹から痛みが伝わって来た。思い切り膝も打ち付けているのか、力が入らない。

立って、!走らなきゃ、!!

のろのろと立ち上がり、力の入る足を軸にして、それでも飛行船を追いかける。

だけど…もう、すでに船は離陸して…追いかけられない。


それでも私は、バランスの悪い歩き方で追いかけずにはいられなかった。


PA PU WA一覧へ

宜しければ感想を下さいませ♪メール画面(*別窓)

2007年3月29日