休暇の申請は、案外アッサリ通った。やっぱり私が休んでも、仕事に差し支えがないんだ…と思ったら胸が痛い。
…まぁ、折角の休暇だから、思いっきりだらりとしてやるさっ!!

ガンマ団の支部で降りてから、電車を乗り継ぎ3時間。山に囲まれた谷間みたいな町に私の実家はある。

「ただいま!」

「おかえり」

「全然変わらないね!姉ちゃん」

母と弟と、父まで狭い玄関に押しかけて来て、てんやわんやだ。

「あ…お土産は、ウィスキーとワインくらいしかないけど…」

ボストンバッグから、3本の酒を取り出す。

「…相変わらずアル中街道猛進だね、姉ちゃん…」

そう。実家に居たときから、余った酒を処理するのは私の役目だったので…ちょっとやそっとの量では酔えない私なのだ。

「…ありがとう。ウィスキー使う料理研究してみるわ」

母もあきれた顔をしている。

「そんなところで話し込んでないで…夕飯にしよう」

父がさっさと食卓へついて、1人でビールをコップに流し込んでいる。
食卓には…母の作ったであろう唐揚げ!
私の喉はビールと唐揚げに釘付けになった。弟の呆れた視線を感じるけど、好きなものを目の前にするとどうも興奮してしまう。

「注ぐよ、父さん」

父からビール瓶を奪い、グラスの更にあまった半分にビールを注ぐ。

「お、じゃあ、にも注がないとな」

瓶を私から奪って、私の前にあったコップにうまい具合に7:3の割合で注いでくれた。

「母さん、食べていいー?」

「いいわよ。いただきますしてからね」

あぁ…こんな光景って、昔はたまらなくうざったかったけど、今は大変に感動的なものに見える。年をとったって事なのかな。

「いただきまーす!」

1人だけ大声で、叫んだ。


*-*-*-*-*-*-*-*-*


「お母さんの唐揚げって、生姜がきいて衣がさくさくしてて大好き!」

普通のお店や出来合いでは、ここまでさっくりせず、生姜もきいていない。自分でも母の味を真似るけど、やっぱり作ってもらったという事が大事なのだ。
母の味で大好きなものが、プディングやバニラがきいてるところでないところが、私の由縁で家なのである…。

「あ、そーいえば今日、ガンマ団の飛行船が飛んでたぜ」

…飛行船!?ガンマ団の飛行船で、現在稼動しているものは無い。唯一、空を泳いでるとしたら……特戦部隊だ。しかも、ハッキリとマークが見えるほどの低空飛行という事は、この近辺に停まる可能性が高い。

ここが、戦場になる……!?

ちょっとケタ外れな予想が頭に浮かんだけど、特戦部隊だけで、この国を潰せるほど狭くはない(と思う)。……しかもこんなド田舎を全破壊したところで、この国にとって然程痛手じゃない。
…考えてて空しくなってきたけど…あまり深く考えないようにしよう。
隊長たちの戦闘してる所は、見た事ないから良く分からない。出動する時は“攻撃目標全破壊”という物騒なモットーがあるらしいけど。どの程度の規模を指してそう言ってるのか分からない。

とにかく、こんな考えが恥ずかしいほど、ここは中心から遠ざかってる町なんだから。

「あ、明日、ちゃんと会うんでしょ?送ってかなくていいの?」

が迎え来てくれるって言ってるから、大丈夫」

明日は“かぼす”について、心おきなく語れる!


*-*-*-*-*-*-*-*-*


…楽しい再会…だったのだけど…。
カラオケに行って『桜に町』を一緒に歌ってると…が泣き出した。こんな事初めてで、私も持ち前のパニック気味が手伝って何も出来ずオロオロしているばっかりだった。
帰りの車の中では、は一言も喋れず…相槌が無くてもずっと話題を振り続けられるほど、私も強くなくて…終始、気まずい。
そんな沈黙に馴れる事が出来ないまま、私の家まで着いてしまった。
、明日休みだって言ってたよね。

…今日は呑み明かさない?休みが終わったら、多分、またずっと帰って来られないからさ…」

「…うん…」


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私の部屋は既に無いので、客間にテーブルを持ち込み缶ビールを保冷バッグに入れて即座に呑みの席を完成させた。

「…彼氏と何かあった?浮気とか…?」

「ううん…浮気は全然されたことないし、むしろ私だけって感じ。」

「…じゃあ、彼氏がらみじゃない事?」

「彼がらみだよ」

「…じゃあ、何?暴力とか?」

「それもない。真面目で誠実だから…ピュアな人だから、私の心の中でひっかかるの」

全く見当がつかない。私の3大理想の内、2つも持ってる人が彼なのに、は何が不満なんだろう。

「…どういう事?」

「結婚しようって言われた」

「幸せの真っ只中じゃん」

マリッジブルー!そうか!幸せ過ぎて怖いとかっていう惚気か。それならそれで幾らでも話を聞いてあげられる。ワクワクしながらを見たのだけれど…は力なく、首を横に振った。

「…彼が、けじめとして、ずっと忘れられない昔の彼女の事を話してくれたの」

「…どうかと思うよ」

要領が悪いっていうか…バカ正直っていうか…が気にしない訳ないのに。あ…でも、私はソレくらいの方が好きだ。でも、の彼なんだから、を悲しませない対応をして欲しい。

「…その彼女ね…結婚まで考えてたみたいなんだけど、事故に遭って死んじゃったんだってさ…」

「…」

言葉に詰まった。死んだ人は時が止まる。いい思い出だけ美化されそうで…簡単に言葉を返せない…。
私の引き出しでは、何も出来ないのかな…。だけど、明らかに、彼にとっては今のが大事な筈だ。
会った事はないけれど、前に送信されてきた写真は、幸せそうだった。

「だから、多分彼女の事は忘れないけど、一緒に生きるなら絶対私がいいって…だから、話したって言ってた」

決定打だ。本当に彼がそんな事を言ってるなら、かなりの覚悟がある筈だ。

「…そこまで想われてて、はどこがひっかかるの?気にせず幸せになりなよ。この世の中すべて、オール・オア・ナッシングってワケに行かないんだからさ。」

私の少ない恋愛経験から搾り出して言う。でも、はまだ納得がいってないらしく、また首を横に振った。

「…私…生きてるからさ。これから先ドジやらヘマやらやって彼に幻滅されると思うの。例えば…ムダ毛処理をうっかり怠ってしまったりしたら、死んだ彼女の事でそんな事引き合いに出さないじゃん…?それに、過ぎて乗り越えた思い出には美点しか残らないから…その時点で、私は、彼女に勝てないって思うと、複雑なの」

なんで、そこまで不幸になれるんだ!
会えもしない人と勝敗を争うなんて、不毛としか思えない。

「…勝たなくていいんじゃない?」

「え?」

「…贅沢言ってないでさ…は、そこまで大好きな彼と一緒に居られて結婚も出来るんだよ?」

とりあえず、確認と、念押しの意味で言ってみる。

「元カノは、一緒に居られないんだよ?幻滅されないとか、勝ちとか…それ位は譲ってあげなって」

が、残ったビールを一気にあけた。顔は、眉をしかめている。昔と変わらず、いい呑みっぷりだ。

「そうだね」

が、少し眉を元に戻して、呟いた。

「勝ちを譲っても、私は彼と一緒に居られるんだもんね…。幻滅されるようなトコ見られても、別れたくないって思わせるくらいイイ女目指すよ…。」

が、穏やかに口角を上げる。

、変わったね。昔より、強くなってる」

…思い当たるフシは…かなりある。全ては前の会社からの肩叩きの洗礼から始まったのだと思う。

「そりゃ、ガンマ団職員ですから!」

は、さらに笑顔になり、新しいビールを開けて手元に置いた。

「で、は、メールに書いてた…ロッドさんだっけ?その人にアプローチしないの?」

いきなり何を言い出すんだこの子は!私の理想を知ってるくせに。

「…しないよ。だって、女にだらしないし。セクハラするし。白い恋人フリークだし。よく嫌な仕事押し付けられてるし。しょっちゅう失言しては減給喰らってるし。私の事からかうし…好きじゃないし…」

「ベラベラと思いついてるじゃない。それだけ彼の事考えてるって事じゃないの?」

は呆れた様な笑顔を浮かべて、ビールを煽った。

「あ、結婚式。必ず来てね。」



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2007/4/20