夜中に起きて、水を飲もうとキッチンへ向かう。

カコガコガタとキーボードを打つ音がリビングから聞こえてきた。
覗くと…眉間に皺を作りながら、ちゃんが何か入力している。

「何やってんの?」
ちゃんが、顔をあげて笑顔を見せた。少し疲れてるようで、目元に力がない。

「ロッドさんか…。先月の支出報告書を作ってます」

「それ、明後日までじゃない?明日すればいいのにぃ」

ちゃんは頭を左右に振った。

「ちょっと、目が覚めちゃって…」

また笑ったけど、困ったような顔になってる。

「…じゃ、一杯付き合わない?」


*-*-*-*-*-*-*-*


「…夢を見たんです。」

ワインを一口呑んで、ちゃんが呟いた。

「どんな夢?」

多分、表情が暗いからいい夢ではないんだろう。悪い夢は、人に話すといいと昔聞いた事がある。

「…捕まった時の夢…」

この前の…。俺達もちゃんも、その事には触れないようにしていたから、詳しくは分からない。この前、服を脱がせようとした時の反応を見る限りだと、相当怖かったんだろう。

ちゃんは、またグラスに口をつけ、半分程喉へ流す。いつもは美味しそうに呑んでるのに、今日は笑顔が消えている。

「…服を取られて、閉じ込められただけだったけど…怖くて。…何もされなかったからマシだって分かってるけど…吹っ切れないんです」

…何もされてない…。
あの状況なら、強姦されてもおかしくない。ちゃんは、まだ確かにマシだ。
比較で、良い、悪いを決められる事じゃないけど、本当に良かった…。

「自分で脱ぐのは平気なのに、脱がされるとあんなに怖いなんて思わなくて…」

今にも泣きそうな顔で、グラスを空けた。だけど、次には青くなって…グラスをテーブルに置くと、走って出て行った。

ちゃんを追いかけ、キッチンを覗く。…居ない。
トイレは…。電気が点いている。鍵は掛かっていない。咳と吐くような声が聞こえてきた。ちゃんの声だ。

「大丈夫?」

大丈夫じゃないだろうけど、聞いてみる。

返事は無い。

ドアを開けると、ちゃんは便器に吐いていた。ペーパーで顔と手を拭くと、振り返った。目を赤くして、申し訳なさそうに笑う。

「ワイン…せっかく貰ったのに、ごめんなさい。」

痛々しいと感じる笑顔は初めてで…いたたまれず、ちゃんを抱き締める。

「…汚れるから、離れて下さい」

「水臭い事言わないの」

「クリーニングの請求は受け付けませんよ」

いつもの憎まれ口なのに、胸に刺さるようだ。

「…久々のお酒だったから…かな」

「ふだんのちゃんはもっと呑むでしょ」

「ああ、やっぱりそう思いますか」

こんな時でも泣かないちゃんに感心するけど、少し遠くに感じてしまう。もっと甘えてくれていいのに、頑張っては傷を負う。甘えようとしないちゃんも好きだけど、今日のちゃんは遠くに感じる。
なんとかしてあげたいけど、どうしようもない。

ちゃんを腕に捕まえながら、ただただトイレの前で時間が過ぎて行く。



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2007年3月27日