おじ様。

入学式も無事に終わりました。心なしか、気温も一気に過ごしやすい位温かくなったと思いませんか?節電や節水してるのに、もう!温暖化の影響なら悲し過ぎる。やっぱり、もう少し気温が低い方が春らしいと思うのです。

寮での生活は新鮮です。新鮮だから慣れないこともあるけど…でも、楽しい。
両隣の部屋の子とも友達になりました。とても対照的な子達です。

星野ちゃんは可愛くて、しかも落ち着いてるの。気が利く子で、見習いたいなってよく思います。

もう一人の子は成金ちゃん。ちょっと怖い。怖いって言うより高飛車かな。この子と付き合って行くのは少し不安…。でも、性格悪くない(と思う)から、なんとかやって行けそう。うん、やっていける。ちゃんは美人な分、性格が余計キツく見えちゃうだけだと思うから。

二人とも、名のある企業の重役の娘さんみたい。(詳しく書かないのは、聞いてないから。根掘り葉掘り聞くのは躊躇われたからです。だって噂好きのオバサンみたいじゃない。)

当然、私の身の上もさらりと聞かれる訳で…おじ様の事を『両親と仲が良かった、親切な後見人』って言ってしまいました。本当の事を言ったら、中々信じて貰えないと思って…。事実はフィクションよりも脈絡が無いって事の、いい見本ですよね。
でも、あながち間違ってはいないと思うんです。中学三年間、お世話になり続けた担任の親友であるおじ様が、後見人を引き受けて下さったのだもの。
本当に、ありがとうございます。

時計が十二時を指しそうなので、今回はこの辺りで…。

もうすぐ中間テストです。おこがましいけれど…今回は自信があります!きちんとテスト勉強しているから。
楽しみにしていて下さい。






*………*



手紙を受け取ってから、しばらく経ったある日。今日は仕事の都合で近くまで来ていたので、の元・担任…大学からの友人を訪ねて公立の中学に来ていた。
職員室の中のソファに腰掛けている。応接室が無いのだと、友人が説明してくれた。

は“今回はテスト勉強をしている”と書いていたが…」

「ああ。は、テスト勉強らしい勉強はしない奴なんだよ。いつだったか…数学で二十点をとった事もあるぞ。」

友人は苦笑いをして「懐かしいな」と付け加えた。

「受験の時に、生まれて初めて必死に勉強したとか言ってたよ。お前に感謝してるから、今回は勉強する気になったんじゃないか?それに親からの無償の情とは違うから、それなりに危機感もある」

「そうだろうな。しかし私はに対して、見捨てるような真似はしないつもりだ。一度、手を差し出したんだ。責任を持って…」

私たちが喋っていると「失礼しまーす!!」と元気の良い声が聞こえてきた。

声のした方を見ると、竹馬純真女学園の制服を着た女子が立っていた。

「あ!!?どうしたんだ、急に…!」

「先生ー!久しぶりです!」

と呼ばれた女子は、笑顔で駆け寄って来た。
友人の慌て具合からすると…この子が、なんだろう。
私は匿名で、を援助している。ここでばれるのは、不本意だ。

「あれ…先生のお客さま?」

「ん?…あ、ああ。」

友人の態度が不審だ。昔から分かりやすい奴だとは思っていたが…。

「初めまして、お嬢さん。私は、榊太郎だ。」

「初めまして。と言います」

は、私に向くと頭を下げた。顔を上げると、愛らしい笑顔を覗かせた。
その笑顔から受け取れる印象は、手紙で見せる文章と、手紙の便箋や封筒とも少し違うように思える。快活なお嬢さんといった風だ。

「君が、さんか。君の後見人から、話を聞かせて貰った事があるが、こんなに活発そうなお嬢さんだったとは」

「おじ様と知り合いなんですか!?」

「ああ。私達“三人”は学部は違ったが、大学からの友人だ」

“三人”を少し強調して、友人に目配せをする。友人は、その意味を理解したらしく、眉を動かした。

「そ、そうなんだよ。榊、あいつの名前や素性は内緒だからなっ?」

「…心配には及ばない。という訳で、あいつの事は話せないんだ。すまない」

「なーんだ。せっかく、おじ様の事を聞けるかと思ったのに…」

内心、友人のフォローに溜息をつきつつ、を見ると、少し拗ねたような顔をしていた。

「それより、。どうしたんだ?急に来て…」

友人は、一番最初に言ってた事を今度は落ち着いて吐き出した。

すると、は含み笑いを浮かべて、鞄を開けた。

「実は私、数学で凄い点数を取ったんです。」

「は?また二十点とかか?」

「違います!今度はまともな点です。」

そう言って広げられた答案用紙には…。

「八十七点…」

友人は呆気にとられて、驚いた為か微かな声で点数を呟いた。

「ね!?私、頑張ったでしょう!」

は友人の態度に満足したらしく、得意気な笑顔になった。

「よくやったな、が数学で八十点台なんて初めて見たぞ」

は、数学が苦手なのか。
目の前で、二人は手を取り合って喜んでいる。
私が所在無くしているのをは気付いたらしく、友人と手を取り合うのを止めて申し訳なさそうにした。

「すみません。お話の途中に乱入しちゃって…。先生に、この点数を伝えたくて」

「構わない。君にとって、初の快挙だったんだろう?気にしなくていい」

近くに来たから、何となく寄っただけなのだ。そんなに重大な話をしていた訳ではない。

「そうなんですか?」

「ああ。君が気に病む事はない」

「良かった。」

は、少し笑ってテストをしまった。

「じゃあ、私はこれで。帰ったらテスト終了記念に、友達と人生ゲームをしなきゃだし」

…もう、帰るのか?友人を見ると、腑に落ちないといった表情を浮かべている。私もそう思う。
しかし、友人は少し笑っている。呆れ笑いの様な笑顔だ。

「相変わらず、マイペースだな」

「だって、電話とかじゃなくて、本当に見せたかったんですよ。いつも、数学勉強しろって嘆いてたじゃないですか、先生。」

のマイペースは、相当なものらしい。しかし、マイペースな彼女が頑張ったという事はかなり奇跡なのだろう。友人と彼女のやりとりを見るとそう思える。
彼女が「じゃあ、失礼します」と礼をして、踵をかえす。

竹女は氷帝と、車移動でならさほど離れていない。これは、彼女の事を知る絶好の機会ではないか?
彼女のマイペース加減や、手紙とはまた違う印象に興味がある。

「待ちなさい。そろそろ日も暮れる。送って行こう」

「え?」

は、眉を高く上げて目も丸くして、私を見上げた。



【了】
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2007/01/05