my monkey is blue.
お父さんは、今度の土曜日は稽古が早く終わるから、夕方から家に居ます。
是非その日はどう?って言ってます。
公演中しかファンの人に会わないので、ものすごく張り切ってました。(こっちが疲れるくらいに)
でも、侑士さんは練習ですよね?
まあ、お父さんはずっと家に居るんで、気が向いたらどうぞ。
******
昨日、こんなメールを送ったところ、昨日のうちに、侑士さんからメールが来ていた。
携帯を賭けた中間テストもあり、“約束”を忘れてたから少し気まずい思いがあったけど、このまま忘れたふりをするのも気がひけたので送ってみたのだ。
いつもより必死に、長太郎とお姉ちゃんに助けて貰いながら勉強したから、お母さんの出した条件をなんとかクリアできた。
全部の教科で九十点以上を取れた時の感動といったら!
返信の早さに申し訳ない気持ちになりながらも、中身を確認する。
ありがとうな!
今度の土曜日の練習は昼前に終わるから、お邪魔させてもらうわ。
ちゃん、鳳の練習見てみる?
来るなら、連絡してな。
勿論、行くに決まってる!
即座に返信した後は、私は長太郎の練習姿を想像していた。
でも、一回もテニスをしているところを見たことがないので、あのユニフォームを着て突っ立ってるところしか想像できない。
早く土曜日になる事を切に願って布団に潜った。
*****
土曜日、私は午前十時に、お弁当を持って氷帝学園の前に居た。
侑士さんにメールしたところ、長太郎の練習を見せてくれる報酬として、お弁当を請求されたからだ。
すぐにお父さんの予定をメールしなかった事を根に持ってたのかな。
それにしても、校門前には私服の女の子がいっぱい居る。
学校に入っていかないところを見ると、私と同じく他校の生徒なのかな?
「ちゃん」
呼ばれた方向を見たら、侑士さんが居た。
「ごめんな、待たせてもうて」
侑士さんの登場に、歓声があがった。
それはもう、彼女たちの大興奮が伝わってくるほど、切ないまでに甲高いどよめき。
侑士さんは女の子を見渡すと、少し張りのある声で喋った。
「この子は身内やから、手ぇ出したらあかんで」
びっくりした。
私は、侑士さんの身内になった覚えはない。
そんな私の驚きを察したのか、侑士さんは耳打ちしてきた。
「とりあえず、こう言うとかな後で大変やから、身内の振りしといて?」
私は頷いてみる。侑士さんは確かに格好いいから、モテるんだろう。
確かに、周りの女の子たちは目つきも鋭く私を見てる。
……ここで頷かなかったら、大変だったんだろうな。きっと、何か苛め的な事が待っていそうだ。
モテるって大変なんだなあ。
長太郎もこんなに大変なのかな。
侑士さんについて行き、警備員さんからパスを貰って首から下げた。
女の子たちから少し離れたところで、侑士さんが話し掛けてきた。
「今日はずいぶん大人しい格好しとるな」
私の今日の格好は…柄もののチュニックにデニム。それにスニーカーである。
「まあ…休みなんで」
「そんな理由なん?まあ、ええわ。次は期待しとるで?」
もっと姫系の格好をしろって事かな?まあいいや。滅多に会わない人だろうし。
「わかりました」
侑士さんは、満足気に頷くと、またのっぺりとした笑顔になった。
なんなんだろう。映画とかの話の時は、もっと生き生きしてるのに。
「鳳たちは次コート入るから、着いたら丁度ええ感じや思うで」
「はい」
頷いたその時、すごい美人と体格のいい人が向こうから歩いて来た。
遠巻きに見ても素敵な雰囲気を纏って、顔立ちだって目を引く感じ。
体格のいい人は、片手を上げて忍足先輩に喋りかけた。
「おっす、忍足」
美人の人は、控え目に会釈した。
「なんや、自分ら休日まで学校デートか?羨ましいなー。見せつけんといて」
「忍足こそ、休みの日に他校生連れ込んで。なに?新しい彼女か?」
「そういう事にしといて」
「ふうん。ま、いいや。じゃな。あ、アンタ、襲われないようになー」
「忍足先輩、彼女さん。お疲れ様です」
私の分も、カップルたちは挨拶をして去っていった。
私も、あわてて頭を下げた。あの人たち、すごく、お似合いのカップルだ。
彼の方はキレ長な瞳に精悍な感じで、軽口もたたけるから話しやすい印象を受ける。彼女の方は髪がサラサラの肩までのストレートで目が大きかった。まるで、フランス人形と日本人形のいいところだけ組み合わせたかの様な。だけど、挨拶の様子から、お高くとまった様子も見えない。
男らしい人と、控え目な美女。並んでいてお互い幸せそうだ。古きよき日本てやつ?
「あの彼女…鳳と去年同じクラスでな」
侑士さんが彼等が見えなくなってから話し掛けてきた。
「ちょっと前は、鳳が振られたいう噂で大変やったんやで。なあ、鳳もアイツに負けず劣らずの面食いや思わへん?」
今のが、初恋の君…?
名前すら知りたくなかったから避けてきた、顔をバッチリ確認してしまった。
その上、感じのいい女の子だということまで気づいてしまって……。
あんな素敵な女の子……自信をなくしそうだ。
果たして私なんかに、長太郎を振り向かせる事が出来るのかな。
侑士さんは、長太郎を面食いと称したけど、きっと違う。私だって、一年近く恋愛相談を受けてきたんだ。
確かに、顔はどんな人だって好きになる位に奇麗だけど、長太郎はあの彼女の幸せそうな顔や柔らかい雰囲気が好きだったんだ。
だけど、口が開けない。まだ、長太郎が彼女の事を好きだという事を、私が彼女に劣ってるという事を認めてしまっている様で、ベストな切り返しが思いつかない。
侑士さんの、大馬鹿者。なんで、言ったりしたんだ。
自信が無くなったじゃないか。
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