my monkey is blue.

生まれて初めての失恋を、同じ日に経験した幼なじみ・長太郎の試合を見に行きたいと告げたら苦い顔をされた。
この前の告白は一旦忘れてと言ったのに…まだ気にしてるの?

それに、今、勉強教えて貰ったのも一段落してから聞いたから、空気が読めてないなんて事は無い筈だ。
私が怨みがましく、じっとりと長太郎を見つめていたら、今度は溜息を吐かれた。

「…そんな顔しないで。うちの応援は独特だから、多分、は居づらいと思うんだ」

応援が独特?別に、独特なのはいいことじゃないの。他と差を付けようと、応援部の子なんか必死に工夫してるくらいなんだから。

私が少し考え込んで居ると、再び長太郎が口を開いた。

「いや、本当に、の性格上いたたまれないと思うよ」

その台詞からは、諦めさせようとしてるのがありありと伝わってきて…少し悲しい気分と怒りたい気持ちが私の中で混ざり合った。

「そんなに試合に来て欲しくないならハッキリ言えばいいじゃん!長太郎の大馬鹿もの!」

私は持ってきたノートと教科書、そして筆箱を纏めてバッグに入れて長太郎の部屋を後にした。

予想通りに、長太郎はすぐに扉を開けて追い掛けて来てくれたけど、長太郎のお姉ちゃんも隣の部屋から出て来た。

「あ!ごめん、うるさくして」

「ごめん、姉さん!」

私と長太郎は同時に、お姉ちゃんに向かって謝る。長太郎と隣の部屋だから、うるささも一塩だろう。
でも、予想に反してお姉ちゃんはにこにこしてる。

「謝らないでよ。に用があるんだから」

「へ?」

お姉ちゃんが、私に用があるなんて珍しいな。

「まあ、来てよ」

お姉ちゃんが私の手をとって元来た方向に引きづられる。
お姉ちゃんは、自室に私を押し込むと鍵をかけた。
何で鍵をかけるのかな?

、長太郎の試合に行くんだ?」

お姉ちゃんは、面白いおもちゃを見つけた様な顔をして私を覗き込んだ。私はその猫が無邪気に鼠を弄ぶ時の様な無邪気さに気圧される。

「…うん。でも、来るなって言われた」

「あー…でも、長太郎の言うことも分かるんだよね。氷帝のテニス部の応援は、気合い入ってるから」

お姉ちゃんは、壁に耳を当てて聞いていたんだろうか?こんなに筒抜けだなんて。
お姉ちゃんは、チェストの引きだしからいくつか服を取り出している。
目に入って来るのは…花柄、ピンク、ミニスカート、フリル、レース。
お姉ちゃんが普段着てる、姫カジュアルなものだ。

「だから、氷帝生にナメられないようにしなきゃ」

私の耳は聞き間違いをしてないだろうか?応援は、みんなで一緒に勝利を願うものだ。
氷帝生の長太郎を応援するのだから、目の敵にはされないと思うのだけれど。

「ナメられる…?」

「長太郎、あれで中々モテてんのよ。人当たりも面もいいし。一昨年からバレンタインは大変みたい」

お姉ちゃんは洋服を上下で並べて、いくつか組み合わせを作りながら答えてくれた。

言われてみれば、カッコイイし優しいし…女の子が好きな条件が揃ってる。そんなにライバルが居るとは知らず、照れ臭くて、バレンタインには“おめでとう”の一言しか言って来なかった自分を呪う。

「それに、テニス部のレギュラーになったら…余計にモテるってもんよ」

そうか…初恋の君が長太郎から少し遠ざかっても、ライバルなんてウヨウヨ居るんだ。なんて視野が狭かったんだろう。

少し俯きかけたら、お姉ちゃんにおでこを小突かれた。

「こら、落ち込むんじゃない!」

「な、なんで、私が落ち込むの!?」

お姉ちゃんには一度も、長太郎を好きだと言った事は無い。何で、落ち込んだと思われたの?

「長太郎のこと好きなんでしょ?十年以上の付き合いのの変化くらい分かるって」

お姉ちゃんは優しく笑ってくれた。こういう時、ここの姉弟は似てると思う。

は、私の妹みたいなもんだから応援してんのよ」

「お姉ちゃん…」

お姉ちゃんが親指を立てて拳を差し出して来たので、私もそれに倣い拳を差し出す。私たちは軽く拳を小突き合わせた。

「だから、試合にはここの服着て行くように」

絆の再確認をしたと思ったら、お姉ちゃんがとんでもない事を言い出した。

「え!いや、いいよ。ミニスカート、恥ずかしいし…ここまで女の子っぽいの着たことないし…」

焦って言い訳をつらつら述べると、お姉ちゃんが少し眉を上げて反論してきた。

「何言ってんの?!女に生まれたらミニでしょ。ロングスカートやパンツは歳とってからでもはけるんだから、断然ミニ!」

「で、でも…そんな格好で応援行ったら、なんか違う気が…」

「気合い入れた格好で応援しないで、何が応援よ?…には、これかな」

お姉ちゃんは、中でも一等ふわふわひらひらした組み合わせのセットを袋に入れた。
たしかに、中では一番落ち着いた組み合わせだけど、ミニという事と、とても女の子らしい服ということもあって受け取ることに抵抗がある。

「私も、元カレの応援はライバルに負けないように、気合い入れていったもんよ」

ここの姉弟は揃って氷帝に通っていたんだった。

お姉ちゃんは、とても懐かしいものを思い出しているらしく、目を細めている。とても大事な思い出なんだろう。
いいな。そんな風に誇れる思い出って。

私も、応援はどんな形であれ、一生懸命にしたいと思う。
たとえ、うっかりこれを着忘れたとしても。

「あ、絶対着てよ?後で長太郎に聞くからね」

私の考える事は見当がついてしまうのか、駄目押しをされてしまった。

どうしよう…。



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2007/07/26
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