あー…っ!
の奴、遅えな。珍しく玄関前に居るのに、今日に限って中々帰って来やしねえ。
人の話もロクに聞かねえで電話切りやがって。今日は言うからな。ガチンと。

…でも遅えな。そろそろが夜の町を歩けなくなる時間だ。
これは、お持ち帰りか?お持ち帰りされちゃったのか?

……そうなったら、マジで堕天使の様に生きてくしか無えよ…。いや、堕天使になる前に、をたぶらかした奴を絞めねえと。

「銀ちゃーん!」

階段の下からの声が聞こえてきた。ちっ。ようやく帰って来やがったか。

、おまえ何時だと思ってんだァァ?!…?」

あれ…、立ち方おかしく無え?男に肩を貸して、フラフラな状態で…。

…男。

えぇぇー?!お持ち帰りして来ちゃった!?

「銀ちゃん、手伝ってー…!」

俺は認めねーぞ、そんな男!



*………*



から、男をひったくって運んでソファーに放る。
それでも「うっ」と言っただけで、起きる様子もない。

「優しく置いてよ、銀ちゃん!」

「あぁ?こんなになるまで呑んだコイツが悪ぃんだろ。もっと自制ってやつを覚えるべきだと思うね、俺は」

「普段、いろいろと自制出来てない人の言葉じゃないよね」

「俺は、あれだよ。ほら、自力で帰って来てるだろ。」

「大抵は酔いがある程度醒めた朝に帰って来てるじゃん」

「いいんだよ。自力で帰って来てる事に変わりは無えんだから」

「そうだね。そこは偉いと思うよ」

は、そう言うと台所から水を持ってきて、薬箱から小さな包みを取り出した。

「オイ、明らかに話を切り上げただろ。今。」

はいつものように、軽く無視をして別の事をする。

さん、さーん」

っていうのか。
は全く起きるそぶりが無い。

「おいおい。そんなんじゃ起きないんじゃねえの?」

「そうかな…」

「退け。俺が起こしてやるから」

俺は、ここぞとばかりに、強めにげんこつを振り下ろした。
俺の拳も痛い。も目を開けた。

「痛い!…っ」

「俺も痛てェェ!」

「ちょっと、思いきり過ぎだよ!」

は心底驚いたようだ。てか、俺の心配を…。

さん、大丈夫ですかー?」

は机に置いたコップと包みを手にとってに話し掛けた。

「ねえ、俺の心配は?結構、じんじんいってるんだけど…」

「銀ちゃんが手加減しないのがいけないんでしょ。……さん、私が分かりますかー?」

「あー…ちゃん…」

は、どうにも定まらない視線でを見る。

「これ、飲んで下さい」

「もう呑めない…」

「お酒じゃないです。よく効く胃薬ですよ」

の返答もきかず、薬と水をの口に放り込んで、しっかりと口を塞ぐ。
…おいおい…、近すぎじゃねぇ?

「んんっ!!んー!」

「飲み込んじゃえば大丈夫ですよ。飲み込んじゃって下さい」

は観念したらしく、飲み込んだ。

「に、苦いっ…」

「だから、よく効くんです。もういいですよ。」

はそう言うと、を横にした。



「なに?銀ちゃん」

「俺、二日酔いの時、あんな事してもらった事無えんだけど」

「仕事行く時とかの忙しい時に、帰って来るからじゃん」

「あんな薬、ウチにあるのすら知らなかったんですけど」

「いつも言ってるよ!“寝る前に飲むといいらしいよ”ってさぁ。銀ちゃんが覚えてないだけであって」

…あれ?そうだっけ?ま、思い出せ無えのは仕方が無いから、放っておこう。
が台所に、コップを置きに行ったので呼び戻す。今日の途中で電話切った件で、しっかり言っておかなきゃいけねえよ。

「おい。、こっちに来い」

「用があるなら自分から来なよ」

…可愛く無えェェ!!
。お前、何でそんな風になっちゃったわけ?
一緒に暮らし始めた辺りは、俺の後をついて来て、テレビで“実録!恐怖特集”を見た日は「怖いから厠ついて来て」って泣いてた、あのちゃんがさぁ。

台所に入ったら、が皿に牛乳プリンを出して苺ソースをかけていた。
…あれ、ウチって今プリン系の菓子無かったよな。
一人で台所でペロっと、いっとくつもりだったとか!?

「ちょ!お前、何一人で食べようとしてんのォォ!?シメか?一日の疲れと呑みのシメかァァァ!?」

「呑んでないよ!てか、プリン一個で騒ぐんじゃないの!!はい!」

プリンが勢いよく俺の目の前に突きつけられる。苺の甘い匂いが鼻を通った。

「へ?」

「お土産。約束したでしょ。」

「約束?」

「電話で言ったじゃん。お土産買って来るって。」

「言ってたっけ?」

あの電話は、男が呑みの席に居るって分かって、がお持ち帰りされると思ったら気が気じゃなかったからなァ…。正直、覚えて無え。

「もう忘れてるの?じゃあ、買ってこなくても良かったんじゃん…。でも、もう返品出来ないからね、食べてね。」

「あー…じゃあ、遠慮なく」

プリンを受け取って、スプーンを探す。
…このプリンは、いつも食べてるプリンよりワンランク上の匂いがする。
なんだよ、ちょっと奮発したプリン買って来るなんて、可愛いとこあるじゃねえか、
あれ、スプーン…いつもどこにあるっけか…。

「おい、ー。ス」

「ねえ、銀ちゃん」

が、少し暗めな声を出した。スプーンを探す手を止める。

「あ?何だよ?」

「銀ちゃんは、私を引き取った事で自分を押さえつけたりしてない?自分を殺してないの?」

は、少し思いつめた顔をしてる。
自分を抑える…。そんなのは、しょっちゅうだ。を、“娘”を、親子以上の気持ちで見ねえようにしてるから。
は、いつも“娘”でしか俺に接して無い。
だからこれは俺の中の問題で、に話す事じゃ無え。

「いきなり何言ってんだ?んな事、考えた事もねーよ」

「……嘘でしょ」

は、溜息を吐いて俯いた。

「あのなぁ…本当にどうしたんだ?に何か言われたのか?」

の顔を覗き込んだら…涙を溜めて歯を食いしばっていた。
え!?!?が何かに言ったんだな、絶対!
アイツ、起きたらタダじゃおかねー。

「ちょ。!?どうしたんだ?何言われたんだ!?」

「…嘘吐き!!!銀ちゃんの馬鹿!」

が何か派手な色使いの紙を、俺の頬に叩き付けた。

「悩みを打ち明けてくれない程度にしか、私の事信用してないんでしょ!?」

「はぁ!?何なんだよ、いきなり!」

「知らない!もう知らないんだから!!!」

泣きながらが台所から出る。そのまま玄関を開ける音と、階段を駆け下りる音が聞こえてきた。
まさか、今から外に!?

玄関を出て、周りを見るとの姿はもう無かった。

!」

裸足のまま階段を降りたが、やっぱり見当たらねえ。
こんな時間に若い女が一人で出歩くなんて…早く連れ戻さねえと!



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2007/12/02