空が青くても、周りが希望とやる気に満ちてても、私は盛り上がれない。何をしても、突き抜ける感じの楽しさがない。焦りは心を乾かして、私を砂にして、いつか風に流すんじゃないかと思う。
高校入学を果たした私たち一年生は、入る部活とかで騒いだり、早めに仲良くなった子達とファーストフードへ繰り出してダベったり色々あるんだろうけど、例外もある。私なんかモロ例外。
「」
入学式の後、HRで名前を呼ばれた時、皆が私を気にしてるのが分かった。じっと見てる子も少しいて、後はチラチラ私を見る。
ここ、明訓の生徒は「清純」って言葉が似合う子ばっかりの学校だから、私みたいなのは珍獣だ。
私は、金髪の少しキツめのカールで、女子全員が着てるブレザーの代わりに薄いピンクのゆったりしたベスト、かなり膝上の丈でスカートを履いてる。
先生と目が合った。
多分、呼び出されるんだろうな。
HRが終わってから、やんわりと注意を受けて、ぐってりとした気分になる。まっすぐに帰る気分にもなれない。学校の中をうろついてみよう。
四月になって、桜も満開までじゃないけど華やかには咲いてる。花を見ると癒されたりするんだろうけど、やっぱり私はそんな事は思えない。
いつにれば、こんな事思わなくて済むんだろう。
なんとなく、恨めしい気持ちで空を見上げながら歩く。
フェンスが見えて来た時、罵声みたいなのが聴こえた。
なんとなくフェンスへ足をむけてみる。喧嘩の光景なら、退屈凌ぎくらいの価値はあるかもしれない。
フェンスの側に来て、そっとグラウンドを覗く。
学ランを着てる人の群れ。
それと向かい合っている野球のユニフォームの人達。中でも怒鳴っている人。
背が高く割かしガッチリしてて、見ただけで威圧される。
(あんな怖い人じゃ、喧嘩する気にもならないか。)
最近の若者はやる気がないって、よく言うし。
私も基本的には、どうでもいい。面白い事だけをを見て、辛いものなんて観ない生き方がしたい。
面白い事をやらかしそうな奴は居ないのかと目を凝らして見てみると、新入生の中で拳をきつく握って、怒ってる人を睨んでる男子が居た。
面白いものが見られるかも。早く喧嘩が始まらないかなって思ったその時、反抗心旺盛そうな人を制して前に出る人が居た。
前に出た男の子は、後ろの席の子だった。
(あの子、野球部なんだ)
横に広くて重量のありそうなその子は、運動なんてイメージじゃなかった。驚きながらじっと見続けてたら、彼はあの怖い人に殴られた。
お人好しなのか、殴られても痛そうな顔はしていない。
今日あった事を…あったといっても、見て居ただけだったけど、お風呂の湯気を辿りながら思いかえす。
彼から目が離せなかった。
彼は竹竿を使って球拾いをしていた。
それを見てた怖い人は、彼を怒鳴りつけた挙句、バットをミゾオチに入れていた。さすがに可哀想だと思ってしまい、怖い人を睨み付けてしまった。けれど、彼が怒鳴られたお陰で名前が分かったのだけど。
彼は山田と呼ばれていた。明日は話しかけてみようかな。
「あがったよ」
お風呂から出ると、お母さんが頬杖をついたまま、宙を見ていた。
「お母さん」
もう一回言うと、お母さんはびくっとしてこっちを見た。
「長風呂だったじゃないの」
お母さんはすぐ明るい顔をした。だけど、慌てて笑ってるみたい。
「今日は疲れたから長く入っちゃったよ」
テーブルには、一人分だけラップが掛けられた夕飯がある。
「お父さん、今日も遅いんだ」
一瞬、お母さんの頬が引きつった。
「今日も仕事、終電近くになるって言ってた」
…嘘。
何回か、フルーティな匂いをさせていた事があった。絶対お父さんには女が居る。
稼いでくれてるなら私は別にいいけど、お母さんをナメ過ぎだと思う。
「、その髪もう少しなんとかならないの」
「毎日言ってるじゃん。ヤバくなったら元に戻すよ」
「…そうね。私が言わなくても、お父さんが言うかもしれないけど」
お母さんは、にんまりとした表情をする。
「若い内に色んなファッション試さなきゃね」
お母さんは、私の自慢だ。
他の親より柔軟な考え方をしてくれる。お母さんを知らない人なら30歳と言っても信じてしまうだろう。童顔だっていうのもあるのだろうが、お母さんみたいな歳のとり方がしたいと思う。
“ピルルル…”
電話が鳴る。
「はい、です。あら、お久しぶり」
冷蔵庫から麦茶を取りだしコップに注ぐ。麦茶のなめらかな舌触り。
お風呂から出てから、水分を摂ってなかったからとても美味しい。一気に飲み干したくなった。コップの傾斜をきつくする。
「、君からよ」
予想外の名に、麦茶を飲み込み過ぎて、思いきりむせてしまった。
「ごめんなさいね。いま電話出られないの。」
今更電話なんてしてないでくれと思いながら、咳込み続けた。
お母さんにも言っておかなくては。
絶対に掛け直すものか。
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