季節外れ。
近所に住む、昔から知ってるさんとこのの就職が決まった。
……俺は、高一。嫌でも焦っちまうだろ?
の周りは、どんどん稼げる大人が増えて……んで、その中にはを守ってやれる奴が居るかもしれない。
まだまだ学生の俺じゃ、の隣に立つ事すら許されてねえ気分にもなるんだよ。
だから、の心に、記憶に残りたいから……俺なりに祝ってやるんだ。
家の前。の部屋の明かりが点いてるのを確認して、携帯の発信ボタンを押す。
一コールもしないで、の声が流れた。
“もしもーし”
「俺。孝介だけど」
“分かってるよ。どうしたの?”
「……就職、決まったんだってな」
“うん。臨時職員だけどね。”
「なあ。どうせ祝ってくれる彼氏も居ないんだろ?お……俺が祝ってやるから、すぐ出て来いよ」
“はあ!?何、ソレ!失礼極まりないよ!”
「いーから!今、お前ん家の前に居るから来いよな!」
電話を切って、すぐに部屋の電気が消えて、ほどなくしてが出てきた。
上は長Tに、下はジャージ。思いきりくつろぎモードだ。
「早かったじゃん」
「自分ちで遅くなる人が居たら見てみたいね」
「ははっ……言えてる」
どうしよう。言葉に詰まる。
手に握るバケツが、湿っぽくひんやりしてる。
いや、違う。俺の手がそうなってんだ。緊張すると、手って冷えるんだよな。
「どうしたの?」
何も言い出さない俺を、は不思議そうに見てる。
言え。言うんだ。泉孝介。
「い…言ったろ?祝ってやるって。…ほら。」
手に握ったバケツと、中に入った花火を差し出す。
は、その意味が分からないのか、目を丸くしてる。
「はぁ」
「なんだよ……昔、言ってただろ。花火はいつだってキレイだから、夏だけと言わずに冬だってしたい……とかさ」
はやっぱり驚いた顔のまま、答え始める。
「あ。覚えてくれてたんだ?…………忘れてると思ってた」
「……忘れるかよ」
頭の中で、あの時のの言葉が再生される。
“冬に花火して、場所は海で、隣に彼氏が居たら最高ー!”
まだ小学校から上がりたてだった俺は、の希望を叶えてやりたいって、強く思った。
出来れば、俺が彼氏で。
その時は花火も家に無くて、それに埼玉から海まで行くなんて中々出来ないから、一つもの希望を叶えられない事が、すげえ悔しかった。
だから、忘れられないんだ。
「ありがと!孝介にしては気が利くじゃん」
は笑顔で、バケツを覗き込む。
にとって俺は、今、安全圏なんだろう。
だから、こんなに自然に臆する事なく笑ってくれるんだ。
の笑顔は好きだけど、こう考えると痛い。
「海と彼氏は、どうにも出来ないから我慢しろよ」
つい、皮肉が口をついて出る。
俺って、カッコ悪ぃ…。
こんな俺を余所に、は「しょうがないなあ」なんて笑ってる。暢気なもんだ。
「海はともかく、孝介というカッチョヨイ幼なじみが居るから、良しとするよ」
「え?」
の口から、意外な単語が出た事に驚く。
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【08/03/11完成】
【08/04/22UP】