ざんざんスクールデイズ。
私ってば、今日も全くもってツイてない。
今日は部活が無いから、帰って教育テレビを見ようと思ってたのに……HRから降り出した雨
が止まないから帰れない。
あーあ……これじゃあ、ピタゴラスイッチが見られないじゃないの。
あの、公園に居る体操着を着たオジサンのコーナーとか、久々に見られると思ったのに。
外は飛沫が上がってるんじゃないかって勢いで雨が降ってる。バケツをひっくり返したよう
な雨とは、この事だ。
帰りたくても帰れないから、教室で一人頬杖をついている。
「あれ、」
名前を呼ばれたので、ドアを見たら泉君が居た。
帽子はかぶってないけど野球の練習着を着てる。少し、汗をかいてるみたい。
「泉君。どうしたの?」
「タオル忘れてたんだよ。こそ、どうしたんだ。部活行かないのか?」
「部活ないの、今日」
泉君が、ロッカーを開けて何やら袋を取り出した。おそらく、タオルが入ってるんだろう。
「へー。……じゃあ、誰か待ってたりすんの?」
「その逆。傘が無いから帰れないだけ」
「そっか」
泉君はタオルに顔を埋めて返答してくれた。
少し長く埋めてやしないか?と思ったけど、汗やシャワーで濡れた肌にタオルは気持ちいい
ものだ。タオルが手元に無くて、すぐに拭けなかったなら尚更だろう。
再び外を見たけど、雨は止みそうになく、土砂降りなのも変わってない。
ため息が、胸から思わずせりあがる。
「ふぅ……」
「ため息、要らないぜ」
泉君が、タオルを肩にかけて再びロッカーに手を突っ込んでる。
「そうは言うけどねえ。やることもなく、ただ雨が止むのを待ってたら、ため息も出るよ」
「だから、要らないんだって」
どういう意味なんだろう?
泉君が、黒い小さな棒みたいな物を手にして、ロッカーを閉めてこっちに来る。
私の机の上に、棒を置いた。
棒は折りたたみの傘だった。
「俺、使わないから。、使えよ」
「でも、泉君は?傘が無かったら困るんじゃない?」
「夕立みたいなモンだろ、これは。俺らが帰る頃にはとっくに止んでるって」
泉君は、笑顔で私の目の前に傘を移動させる。すすす……っと。
なんだか、笑顔が格好よくて照れてしまう。そういえば、こないだも泉君にドキドキさせら
れたんだっけ。
私は、油を挿されていない機械のような気持ちで傘をとった。
「ありがと」
「おう。返すのは、いつでもいいからさ」
「うん」
「……って、チャリ通だろ?」
「うん。あっ……明日、徒歩になっちゃう!」
今、気付いた。
明日は、少し早く起きなくては。朝練もあるのに、徒歩なんて疲れてしまうなあ。
「なんなら、明日、拾ってこうか?2ケツになるけど」
少し面倒に思ってたら、泉君が笑顔で、思わぬ提案をしてくれた。
地獄に仏とはこの事だ。
なんて優しいんだろう。自分だって朝練前で疲れるだろうに、私を乗せてってくれるなんて
。
「本当!?助かる。お願いしてもいい?」
私が頼んだら、泉君は驚いた顔になった。
ものすごく意外に思ってそうな……。自分で乗っけてくって言った癖に。
ん……?
「……って野球部の朝練、五時からじゃん!」
「そうだよ。断ると思って言ったのに、があんまり普通に言うからびっくりしたぜ」
泉君は声をあげて笑い出した。
それを、少し恥ずかしく、いたたまれない気分で見ていると「はぁ〜……うけた、うけた」
と天を仰ぎ笑い止まった。
「じゃあ、俺は練習戻るから……も気をつけて帰れよな」
少し笑いを引きずった声色で、背を向けて泉君は扉まで行く。
私は、やっぱり恥ずかしい気分のまま傘を握りしめて泉君を見送る。
教室を出る辺りで、泉君がこっちを振り返った。
少し、悪戯っ子みたいな笑顔なのは気のせいかな?
「俺、大体四時半くらいにん家の前通るから!」
「……はい?」
「乗りたかったら、乗ってけって事。じゃな!」
「ちょっ……泉君!?」
私が突っ込もうとしたら、泉君は走りだし、廊下を勢い良く駆け抜ける音が聞こえてきた。
四……四時半なんて早過ぎる!!
……そう思いつつ、私は携帯を取り出して、アラームに「四時」を登録してしまうのだった
。
………オマケ………
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08/10/18 UP