ちゃん!一人ぃ?」

「一人で悪いですか」

最近、いつものバーでよく見掛けるタレ目の金髪男。ロッドさんというそうだ。いつも、ボタン全開のシャツか、前の大きく開くシャツを着ていて悪目立ちしている。何故か、よく話掛けてきて、口調も馴々しい。初めて接するタイプで戸惑ってしまい、つい素っ気ない態度になってしまう。

「つんけんしてると、酒がまずくなっちゃうよん」

断りも無く、そして当然とでも言わんばかりの所作で隣りに腰を掛け、酒を頼むのも言い慣れているらしく聞き慣れない銘柄をスラリと言った。各地を転々として、最近はこの辺りで仕事をしているらしい。

「また、つんけんしてるって事は…セクハラでもされた?」

「その質問とアナタのファッションが、私にとってはセクハラです。それに、これが地」

なんとかして会話の追随を逃れたくて、冷たい感じに言い放ってやった。
仕事の事を言われたので、今日の事を思い出す…。セクハラではないけど、職場のお局さまに何かにつけて嫌味を言われたのだ。落ち度や隙のある私もいけないと思うけど、あの言い方は何とかならないものか。このままだったら、たまったものじゃない。
…まぁ、たまったものじゃないと思うのは他にも理由はあるけど、職場では精神的に何かとギリギリになりそうだ。まぁ、あと数ヶ月我慢すれば、オサラバしかないのでなんとか耐え抜こうと思うけど。だけど、その後どうしよう。次の職が決まっているでもナシ…。

ちゃん、いくつ?」

「女性に年齢を聞くのは関心しません」

「言いたくない年なのねー…」

言い当てられて言葉に詰まり、グラスを握る手に力が入る。
分かった気がする。苦手意識の源。この、見透かしてるんだか、見据えてるんだか、そうでないのか分からない所が、対面してて恥ずかしい気分になってしまうんだ。
少し落ち込んだ気分でグラスを見つめていると、黄緑の小さな丸いものがグラスに音を立てて飛び込んで来た。横を見るとロッドさんがそれを片手にウィンクしていた。

「“いくつ”って聞いたのは、オリーブのこと」

私の頬骨から耳にかけて熱が広がっていく。怒り…もあると思うけど、また別の種類のもどかしさが混じって、どう返したらいいか分からない。一旦けなしておいて、フォローを入れる…これは“誑しテク”というものだろうか?

「あーあ。」

ロッドさんが自分のグラスを持ちながら呟いた。

「どうしたんですか?」

一口、ワインを飲み込んでから、私の顔へと手を伸ばした。何かされるのだろうか?少し、体がこわばる。

「俺、まだちゃんの笑った所みた事ねーんだよ」

ロッドさんの指が眉間に置かれた。

「ほーら、力抜いて。特に、ここ」

ぐにぐにと眉間を押されて拍子抜けしてしまった。

「…ふふ…」

「おっ!笑った」

「そこまで言われたら、笑わないワケにはいきませんよ」

私はグラスの中身を飲み干し、氷と一緒に残っているオリーブを摘み入れた。なんとも言えない冷えた塩味が広がって、口の中がスッキリしていく。

「美味しい…。ありがとうございます」



私のこの晩の記憶はここで途切れているのだった。


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