**ほんの数時間前の事**




「ロッドさんって、やっぱ、百戦錬磨の恋愛オーラがありますねぇ!」

オリーブで機嫌が良くなったのか、彼女はカパカパとグラスを空けていく。しかもロックで。もう、5杯は呑んでいる。

「経験豊富なのは、恋愛だけじゃないぜ。」

「どんな事が?」

興味津々と顔が言ってくれてる。ついさっきまでは、あわよくば…と思っていたが泥酔気味の女の子を、どうこうする気にはなれないので今夜は話に付き合う事にする。

ちゃんと同じく、職場の悩みもいっぱいよ〜?」

「どこも大変なんですねぇ」

彼女は眉をハの字に作って、本当に苦汁を舐めた様な顔をする。いつもの彼女のイメージでは、こんな落差のある表情は想像出来なかった。しかめっ面の彼女を知っているだけに楽しい。

「そうだよ。うちの隊長は金にルーズだしぃ」

「それは許せまふぇん」

呂律が回らなくなったと思ったら、今度は目を思い切り見開いてこっちを見た。

「で、どんなエピソードが!?」

彼女の大きな好奇心に御応えするべく、大仰にこっちも答える。

「給料を、勝手に競馬に掛けられた事だな〜!」

あっけらかんと言ったつもりだったが、彼女はそうは取れていなかったらしい…。
大きな音を立ててグラスを、カウンターに叩く様に置くと叫びだした。

「許せまふぇーんっ!!言ってやりますようっ!!!同じ雇われ社員としてっ!行きましょう!」

「へ!?」

俺のシャツの袖を引っ張りながら立ち上がると、出口へ向かって歩き出した。バーテンダーが「お会計をー!」と縋る様に叫ぶ。
彼女は、この国で一番高い紙幣を財布からピっと効果音が付きそうな勢いで取り出すと、近くに居た店員の胸ポケットへ押し込む。

「釣りは要りまふぇん!」

急に拍手や口笛、そして歓声が店内を埋め尽くす。
彼女は空いてる方の腕を上げて、ファーストレディ然として手を振った。出口へ行く間中そうしてるつもりだろうか?

出口へ来たが、彼女は手を振るのを止めようとはしなかった。店の中ではまだ彼女に視線やら歓声を送る人が見える。

「ドア開けてぇ!」

手を振りながら、彼女は言った。

「はいはい」

ドアを開けると、店内の客へ一層大きく手を振りながら彼女は外へ出た。そして俺も外へ出る。

「ありがとう!閉めて!」

彼女の要望通りにドアを閉めると、ピタリと手を振るのを止めてしまった。

素っ気無かったり、饒舌になったり。まるっきり子供みたいで、拍手と喝采を作り出してしまう。…ちゃんって面白れえ…!

「たいちょさんのトコ行きまふようっ!」


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