酔いも醒ましつつゆっくり話が出来そうな店を探して歩いている。
「隊長、どこで呑んでんだろうなー」
隊長に会わせると大惨事になるかも知れないから、会わせるつもりは更々ない。今日は、この愉快な彼女を見ていたかった。
「もうっ!それでも部下さんですかあっ」
ちゃんは、出鼻をへし折られてご機嫌ナナメなご様子。たしか、今日のこの時間は大事なレースがあるとか言ってたから、自室で観戦でもしているだろう。つまり、どこに行っても隊長とハチ合わせる事は無いって事だ。
「うぎゃ!!」
ちゃんの変な声が聞こえたので振り返ったら、片足を投げ出して尻餅をついていた。投げ出された方の足からパンプスは脱げている。
「おいおい、大丈夫ー?」
「いったー…」
「片方だけ脱げるなんてシンデレラみたいじゃん」
「靴は12時ギリギリに脱げるんじゃないんですか?」
「いーのいーの。思った時に言わなきゃ」
パンプスを手繰り寄せたら…ヒール部分が取れていた。
「ウソっ!歩けないじゃんかぁぁ…」
額に手を当てて、ちゃんは天を仰ぐ。ヒールが取れたのが心底ショックだったみたいで、そのまま暫くフリーズして、たまに頭をぶんぶん振っている。
まるで、子供みたいだ。
「俺の背中…乗る?」
*-*-*-*-*-*-*-*
ちゃんは背中で「隊長さーーーん」と叫んでいて、恥ずかしい事この上ない。夜風に当たって酔いが少し醒めたのか、呂律は回ってきているが。
「ロッドさんの、隊長さーん!!」
「本当に出てきたらヤだけどね」
「そんな弱気でどうするんですかあ!給料を取り戻さなきゃ!!」
「堂々と給料払いたくないって言った人だぜぇ?」
「そこまでケチなんですか!!」
「そうそう。」
前を見ると、この前隊長と来たバーが飛び込んできた。割と広めで店長の人柄も良かった。落ち着いて呑めるだろうし、もしかしたらスリッパ位ならくれるかもしれない。
「じゃあ、ここ入ろっか」
ドアを開けた瞬間、今、一番避けていた姿が目に入って来た。
「お!ロッド」
急いでドアを閉める。
「どうしたの?」
「ここ、満席っぽいから別んトコにしようぜ」
「俺の隣なら空いてるぜ」
いつの間にか、ドアを開けて俺達の会話に入って来やがった!
空気読めよ…いや、隊長は空気を読んだ上で、あえて邪魔しに来てる気がする…。
「レ、レースはどうしたんすか?」
「あぁー?集中豪雨で中止だとよ。ムシャクシャしてんだ。おごれ」
「すみません。今、デート中だから、この子で手一杯なんすよ」
「ひっどーい!そんな深い仲になった覚えないようっ!!」
ちゃん!そこは、適当に流しといてくれよ。
「ん?お前にしちゃ、地味な女だなー」
女の子の前でそんな事言っちゃダメですって!!
「もしかして、ロッドさんの隊長さん?」
ちゃん…気付かないで欲しかった。
「おう!偉いんだぜぇ。敬え」
隊長も、無視してくれたら良かったのに…。
「隊長さん!私、話があります!!」
ちゃんは、背中に乗ったまま、ヒールの取れたパンプスを右手に持ってスゴんだ。
空気がキレイに決まっていて、だけど、どことなくおかしい。
カッコイイけど、滑稽だった。
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