店に入り、隊長を挟んでカウンターに並んで座った。ちゃんは今度はワイルドターキーを美味しそうに飲んでいる。この子は今日、きちんと帰れるのだろうか。
そんな心配を余所に、彼女は満面の笑みで笑っている。

「で、何だ?」

隊長が、彼女のグラスが半分程空くのを待って切り出した。

「ロッドさんの給料返してあげて下さいよぅ」

「はあ!?お前、まだそんな昔の事を根に持ってたのかよ」

隊長の視線が突き刺さる。今、話してるのはちゃんですが…。

「昔の事でも、それはロッドさんのお金でしょっ」

「安心しな。最近は、限度ってもんを弁えてるぜ」

隊長は、煙草に火を点けた。さすがに、酔っ払い相手にはムキにはならないか…。
あれ!?“最近は”?

「アンタ、まだ天引きしてんの!?」

「ん?オメーらの老後の積み立てにちょっとずつ…な」

…隊長、何だかんだ言って俺らの事を…。久々に見直した。何だか、隊長の吐き出した煙草の煙が、光ってすら見える。

「ケンタウルスホイミで、倍にして返してやるからよー!」

…ダメだ、この親父…。
軽蔑と諦めの混じった視線で隊長を見つめていると、隊長が茶色の汗を流血みたいに流し始めた。…隊長の頭上にはグラスと、ちゃんのムスっとした顔。
ヤバイ…やりすぎだ、ちゃん…!

「ケンタウルスに頼ってないで、今返しなふぁい!」

「てんめぇー…」

火の消えた煙草を握りつぶして、隊長が低く呻く。顔の筋肉が怒りによって歪んでいるのがありありと分かる。

「ケンタウルスホイミだっつーの!表出ろ!!」

「わっ!」

隊長がちゃんを肩に担いで、店の外へ向かった。ヤバイ、止めねえと!

「隊長!女の子の酔っ払い相手にムキにならなくても…」

「うるせぇ!こんなふざけた小娘、お仕置きだ!!」

店の外へ出てからも、隊長はズンズン進んで行く。
ズンズン進んで…アレ?降ろさないの?お仕置きは?やけに早足だけど。

そうこうする内に、飛行船を停めている空き地まで来ていた。

「ふぃ〜、助かったぜ」

ちゃんをやっと降ろすと、隊長が笑顔になった。

「た…隊長?」

「財布忘れて困ってたんだよなー!」

隊長がちゃんの頭をグシャグシャにしはじめた。

「いつ出てくか迷ってたら、コイツが酒かけたんだよ。服が、酒臭くなっちまったけど大目にみてやるぜ」

「いけませんっ!」

隊長の手を退かさないままで、ちゃんが叫びだした。頼むから、ヒヤヒヤさせないでくれよ…。ちゃんは紙幣を取り出して、俺に握らせた。

「ロッドさん、払って来て下さい。」

「へ!?」

「この靴じゃ、歩けないもん。私、またあそこへに飲みに行きたいから。」

「俺と一緒にぃ?」

「1人でも行きますようっ」

グレイゾーンな返答を受け、それでも、少しだけ気を許してくれてると気付き可笑しくなった。

「隊長さん!」

「あぁ?」

「おごってあげるから、ロッドさんの給料払って!」

「イヤだね!」

再度、隊長とちゃんが睨み合う。

「隊員のモンはオレのモンだ!」

「何ガキ大将みたいな事言ってるんですか!」

「大体、張り付いてまで払わせる根性もねーくせに、無責任なんだよ!」

「じゃー、張り付いてでも払わせてやるう!」

ちゃんが壊れたパンプスを真上へ放り投げ、隊長に抱きついた。

「放せよ!」

「じゃー給料払え!!リストラされた社員のパワー舐めんなぁああ!!」

隊長とちゃんは揉み合っている。理由は何であれ、女の子に力いっぱい抱きつかれるなんて羨ましい限りだ。
そして、ちゃんの頭にパンプスは命中して、そのまま眠ってしまった。
すごい強肩と悪運の持ち主。
こんな、作り物みたいなタイミングで事件が起こるなんて…娯楽の神様に愛されているとしか思えない!

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「隊長…どうしましょう?」

「…丁度クビになったトコみてぇだし…ウチに来てもらおうぜ」

隊長は、また煙草に火を点けて呟いた。

「…からかいがいのある奴も居ねえ事だしよ…」


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