「やったぁ!1人で外の空気を吸える!」

飛行船から降りて、ガンマ団のアスファルトを蹴った。ここは味方ばっかりだから、1人で歩いたって、捕まる心配が無いんだ!
隊長さんの気まぐれ、万歳!

「そんなに浮かれてたら、怖いオニーサンにぶつかるぜぇ?」

ロッドさんが忠告してくれたけど、私はもう有頂天で軽く流すしか出来なかった。

「大丈夫です。怖いオニーサンや隊長さんには慣れてますから!」

「それって俺の事含まれてる〜!?」

ロッドさんの問いをBGMに、事務室へ向かう。逸る気持ちは、抑えようがない。
だって、が『かぼす』の新曲と、オススメのお酒を送ってくれたんだもん!『かぼす』の新曲発売から早半年…今日はきっと部屋でお酒を片手に涙しちゃうんだろうな。
毎日、睡眠時間や趣味時間を削って、帳簿つけたり洗濯したり…そんな私へのご褒美『かぼす』。最近は大きい仕事の後で、徹夜なんてザラだった。目の下のクマを隠す為のコンシーラーが大活躍してたから、そんな予感大だ。
メールのやりとりは出来ても、住所不定(?)なので緊急以外の荷物は受け取れない。だから、ガンマ団本部の事務室へ保管されるのだ。…保存のきく物以外。一応、分別する為に、開封検査はされるらしい。

事務室でサインをして、船内に戻るのを待たず、その場でダンボールをあける。
お酒がいっぱい。それと、の手紙と『かぼす』のシングルCD…!
重たい訳だ…。
手紙を箱から取り出しニンマリとしてみた。
出入り口を出たあとの、来るべき直射日光を避けるべく上蓋を閉じる。

「荷物受け取った?」

「うぎゃっ!」

いつのまにかロッドさんが来ていて、いきなり声を掛けられたのでびっくりしてしまった。

「相変わらず、面白い叫びねぇ」

「いきなり声掛けるからですよ!」

ロッドさんはニヤニヤしてる。ちょっと前にバーで話してた時より、会話は警戒心を持たなくなった。同僚っていう明確なシールドが出来たからかな。

「重そうじゃん」

「友の愛と音楽が入ってますからね」

「ふうん…」

再び気合を入れて箱を持ち上げる。やっぱり、箱の中身が殆ど酒瓶というのはかなり重い。

「ダメ、ダメ。貸して」

ロッドさんが私を制して、軽々と持ってくれた。

「…ありがとうございます…」

…なんかこういう風に不意に助けてくれたり、力が負けても心地いいと思える状態に弱い自分がいる。

「惚れちゃった?」

ロッドさんはウィンクした。“馬鹿じゃないですか”とかムキになって言うと、面白がられるだけなので「そーですね。ホレチャイマシタよ」と無表情に棒読みで答えた。

「今までで一番嬉しくない返事だぜ」

ロッドさんは、笑顔を崩さない。
でも、この手の事で“一番嬉しくない”って事は滅多に無さそうなロッドさんだろうから、このセリフを言わしめた事はむしろ栄冠であろう。

「ふふ。嬉しーい!」

叫んで、浮かぶような足で歩き始めた。

ちゃん、そんな歩き方だと怖ーいオニーサンに…」

「ぶつかる?大丈夫ですよ!」

ポケットの手紙を取り出し封をあける。

へ。

ガンマ団に就職しちゃうとは驚きだけど
もっと驚きの事があったんだよ…
メールには書けなかったけど
北若さんが、女子アナと付き合ってるらしいんだ。
結婚しちゃうのかな?このまま…”

心の中で絶叫があがる。

いや、私は岩河さんの方が理想の男性だけど…!
『かぼす』が好きだからぁあああ……!!
一歩も歩けずフラフラして来て…。何か固くも無く柔らかくも無いものにぶつかった。

「あぁ、堪忍しておくれやす…」

片面だけ顔を出したオニーサンを見た。


*-*-*-*-*-*-*


目をあけると、自分の部屋の天井が。格好いいオニーサンにぶつかって、それから…。

『かぼす』の北若さんの恋愛…。
一生掛けたって、会う事は100%無いと分かって居ても悲しいものだ。今は『かぼす』に関して“悲しい”以外の事が分からない。頭が働かない。

不意にノックの音が聞こえてきたので、とりとめもない考えは中断する。
慌ててベッドから飛び降り、ドアを開けた。

「起きられるじゃねえか…なに倒れてんだ。」

隊長さんが、片方の眉をしかめている。それは怒っているのが、ものすごく感じ取れて。

「クビになりたくなきゃ、てめぇの体はきちっと管理しろ。戦場は、男女差別しねぇからな」

隊長さんは、それだけ言ってドアを閉めた。
どうしよう…『かぼす』の事もあったけど…余計に落ち込みそう。『かぼす』の新曲じゃなくて、隊長さんの、あの取り付く島もない雰囲気に泣きそうだ…。

私、頑張ってたと思う…。頑張るっていう事が、自分で分かんなくなる位には必死だった。
なのに…まだ、頑張らなきゃいけないの?


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