奇特なおじ様。

本日、桜が散りまくったこの折りに、めでたく入寮となりました。新緑の出て来る時に入寮なんて、素敵ですよね。だって葉っぱは光合成をするのですもの。とても自立してると思いませんか?

天涯孤独な身の上(こう書くと、何様だって感じですね。恥ずかしい。)になって働く筈だった私を、学校に行かせて下さった上に、寮にまで入れて頂き、本当に感謝し尽くしてもし尽くせない思いでいっぱいです。
でも、手紙を書けだなんて…おじ様は、あしながおじさんのファンなのですか?
正直、最初は呆れました。でも、願ってもない機会ですから、しがみつかせて貰います。
私が持っているのは、捻くれ気味の脳みそと、『不可』が『可』よりは下回っているこの体です。(自慢じゃありません。念のため書いておきます。一応、肉体労働でもなんとかやっていけるかなと目論んでいたのですが。)
そんな私の考えが面白いなんて。私の思う事が知りたいだなんて。文章を書けだなんて。

芽が出るとは限らないでしょう?
だから、そんな奇抜で奇特で、賭けもしてしまう素敵なバランス感覚を持ち合わせた酔狂なおじ様に出会えた事に感謝します。

感謝してる分、楽しみつつ必死に、これから三年間頑張るつもりです。
ううん。つもりじゃなく、頑張ります。

それでは、今日はこの辺りで。部屋の掃除をしなきゃ。




P.S.お名前は結局分からず仕舞いだったので、『おじ様』と呼ばせて貰いますね。



一通り手紙を書ききって、封筒に入れた。後は切手を貼って、ポストに入れれば、お勤め第一弾完了。

「……本当に入れちゃった。竹女に」

正直、両親が生きていても入れないような学校だと思う。…竹馬純真女学園。

両親は肉親が居ない。だから、私は働かなきゃいけなかったけど、夏休みに提出した読書感想文が私を救ってくれた。
私の担任は、読書感想文を冊子にして担任したクラスに配布している。その冊子が、私を普通の女の子の道へと進めた。


*………*


その日の私は、皆、推薦やら受験やらで忙しい時に、のんびりとしたものだった。…いや、訂正。のんびりとはしてない。中卒で社員として取ってくれる所はあるのか考えていた。そりゃ、あるだろうけど自分がその企業に気に入られるかどうかは、神様しか知らない。だから不安だった。

担任の所に呼ばれていたので、ついでに不安を吐き出すべく進路指導室に来たのだ。

だが、担任は、私の不安を一通り受け止めた後、予想外な事を言ってきた。

は、高校へ行きたいか?」

「…そりゃ、経済的に余裕あれば行きたいけど…勉強と家事全部の両立って難しいって思うから、今の私には向かないかも知れません」

奨学金を受けて、進学するという手もあるだろうが、私にはそれは困難に思えた。

「なら、寮のある高校はどうだ?」

「…金銭面を除けば、とても魅力的ですね」

担任は馬鹿になったのだろうか?こんな話、辛い。帰りたいと言い出そうとした時、担任は電話で話しだした。

「もしもし。……。名乗る前に言うなよ。………。ああ、そりゃ分かるけどさ。今、お前の言ってた生徒と話して…。………。そう、。金銭面と家事について問題が無ければ、高校には行きたいそうだ。………。分かった。じゃあ、話を進めていいんだな?………。ああ。分かってるよ、名前は言わない。匿名だろ?………………。じゃあな。また電話する」

担任が電話を切って、高校進学の資料を取り出して、私立のページを開いた。
そこには、竹馬純真女学園の紹介が書かれていた。

。竹女に行ってみる気は無いか?」

「はぁ?!いきなり、何、言い出すんですか?私には、そんなお金ありませんよ。」

担任は馬鹿だ。こんな私立でお金のかかる学校に行ってみないかだなんて。両親の保険金なんて、微々たるもので、家のローンに当てたら本当に悲しくなる位の金額しか残らなかった。それでも、残った事に感謝しなければ。

「ああ、すまん。いきなり言われても分からないよな。金は、俺の友達が出すそうだ」

「は!?」

「俺の大学以来の友達なんだが、中々、酔狂な男でなあ…。家に来た時、読書感想文集を見て、の書く文章を面白がって…是非、進学して欲しい、と。」

「すっごく、怪しいじゃないですか」

「いや、身元は俺が保証するよ。ちなみに、かなり社会的に高い地位を持ってる。人間としても尊敬出来るぞ。たまに呆れるが…。」

担任は、苦笑いをしながら続けた。

「ただ、条件がいくつかある。時々、手紙を書くこと…最低でも一ヶ月に一通は欲しいそうだ。そして、学生生活を楽しく過ごす事。これが最低限の条件だそうだ」

こんなムシのいい話、あるんだろうか?
でも、中学三年間担任にあたり続けた人の言葉は、信じずにいられなかった。私にとって、酔狂な男は信じられなくても、担任は信用に値する人だ。

「…どうだ?今からなら、受験対策しても間に合う。竹女が嫌なら、他に寮のある学校を探すが…。」

「…行きます!行きたい!受験したいです!!」



*………*



今、私の手には、若干不似合いな可愛らしい封筒と便箋がある。
…やはり、この子…の文章は面白い。もしも将来、文章を書く仕事に就くようになったら、いい仕事をするだろう。

竹馬純真女学園は、昔から多くの女流作家を輩出している学校だ。理事長とも親交があるので、昨日、と私の間に生まれた不思議な関係について話したところ、非常に興味をもって聞いてくれた。

「本当に、あしながおじさんをするとは…」と少し呆れ気味でもあったが…。だが私は、もっとの文章が読みたくなったのだ。彼女の感性で書かれたものを読みたかった。

「榊先生」

呼ばれて顔を上げると、同僚が居た。

「そろそろ、会議ですよ」

「ああ。そうでした」

手紙を引き出しにしまい、立ち上がる。
同僚が窓の外を見ているので、私も倣った。

「桜…散ってしまいましたねぇ。もうすぐ入学式なのに、残念です。」

確かに、もう殆ど散りかけていて、若い葉が出ている枝もある。同僚の言う事も尤もだ。
だが、私はそれ以外の考えをに教えて貰った。

「…残念なことばかりではありませんよ。」

「え?」

「花や実は子孫の為ですが、葉は自分の為でしょう?中々、自立してるじゃないですか。そんな桜を見ながらの入学式も、いいと思いますよ」

同僚は一瞬、呆気にとられたような顔をした。
だが、次には納得したらしく「そうですね。それもいいかも知れませんね」と柔らかい表情をした。



【了】
テ ニ ス の 王 子 様 一 覧 へ

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「あしながおじさん」のパロです。昔、憧れたなー…。
前々から、榊さんはあしながおじさんが似合いそうと思ってました。