私は、今、慈郎君に取り憑いた睡魔と戦ってる。

「慈郎君、起きて!」

「やだ…」

何回も、しつこく呼び掛けた甲斐あって、半目状態を何とかキープ中!

「ねっ。助けると思って、部活出てよー!」

「何でー…?」

お。少し食いついた。ここは、協力を仰がねば。

「慈郎君が、真面目に部活に出る様になれば、ダメなマネージャーをクビにする権限をくれるって跡部君に約束して貰ったの!だから、お願いします。部活、出て!」

「…やだ」

慈郎君がまた眠りこけようとしたので、慌てて肩をゆする。

「ちょっとー!何でよー!」

慈郎君は、眠そうにうらめしそうに私を見た。

「だってー…、俺にメリットないじゃん…」

「あるよ!筋肉つくとか、色々!」

「…間に合ってるC〜…」

ちくしょう!今度はいくらゆすっても、目も開けやしない。

…これは、正攻法じゃダメだ。どうしよう…。とりあえず、樺地君に慈郎君を引き受けて貰って、私は仕事に戻ろう。
そもそも、後輩マネージャー達がまともに仕事すりゃ、こんなことしないで良かったんだけどね!



*…翌日…*



そういや慈郎君は、親友・と同じクラスだった。から、何か慈郎君の食いつきそうな話題聞けないかなぁ…。昼休みに、を呼びに彼らのクラスまで向かう。
部活で、マネージャーと部員という間柄でも、慈郎君は試合形式の時しかまともに起きてないし、私の仕事で部員にまともに接する時はランニング後のタオルと水分配布、終了間際のタオル回収くらいだから、やっぱり慈郎君とまともに話す事なんて今まで無かった。もっと、話し掛けときゃ良かったな。

正直…後輩マネージャーは要らない。私一人でやった方が効率がいい。いや、一生懸命ならいいんだけど、みんな目当ての男子に見惚れてることが多いんだもん。そりゃ“やめちまえ!”とか思って然りだよ。

と慈郎君のクラスに差し掛かったら、慈郎君の“うっわー、すっげぇ!!”と、ハイテンションな声が聞こえてきた。え、何?昨日の、おねむな慈郎君とえらい違いじゃないの。
入口に止まって、耳を澄ませてみる。

「だろ?デビューしたてだから過激じゃ無いけど、乳揺れ度は満点だぜ。しかも喘ぎが絶妙なんだな、コレが」

「マジ!?今日、帰ったら、絶対ヌくC〜」

“ぬく”?十中八九、AVの話じゃないか!

「あー、でもリアル乳って、きっと触り心地いいんだろうな〜…しかも巨乳なんて…想像つかねーよ」

「絶対、気持ちEって!俺も、触ってみたいC!」

「そうだよな!一発ヤるまでは死ねねーって」

……うわぁ…。慈郎君のハイテンションなところは久々に見たけど、AV談義か…これまた、処女の私には刺激が…。
ん?待てよ。
私、Dカップじゃん。自分で今触った感じ、制服の上からでも肉感はあるし…いや待て、。それは、処女としてどうなの?処女っていうか、乙女として。

「…、巨乳自慢したいなら、他所でやってくれませんかねー?」

顔を上げたら、が居た。

「きゃ!何、びっくりしたなー!」

「こっちが、びっくりだよ。で、何?忘れ物?」

が、思いきり呆れた目で見てる。そうだよね、そりゃ呆れるよね…。

「あー…うん。国語辞典貸して」

「国語ね。待ってて」

口から出まかせを、は疑いもせずに、教室に入っていった。私は、慈郎君に対しての作戦を、一人思い起こして顔に熱を集中させている。
でも、これは…断られても、受け入れられてもどっちにしろ恥ずかしいな。

「…だから、人の教室の前で乳揉むなって」

また、の呆れた声が聞こえて、私は慌てて胸に置いた手を放した。



*………*



「じじじ慈郎くん!練習終わったら、部室に居て!」

部活中、ようやく試合形式になってから出てきた慈郎君を捕まえた私は、緊張でうるさい胸を放って、作戦の第一歩…呼びだしをしている。

「やだ。今日は用事があるC〜」

ああ。AV借りたんだもんね。
慈郎君が、そのまま立ち去ろうとしてる。あ、ええと、ええと…待ってよ!

「慈郎君!私、何カップだと思うっ!?」

とっさに出てきた言葉だけど慈郎君が、目をぱっちり開けて、私を振り返った。いや、周りの部員たちも私に注目しちゃったけど、この際、気にしない様にしよう…。

「ええと…C…?」

慈郎君が答えてくれた。でも、やっぱり外れてくれたので、これはいけそうだ。

「外れ!私の胸は」

ーっ!何、血迷った事言ってんだ。練習の邪魔をするな!」

慈郎君の興味を引ききる前に、跡部君の怒号が飛んで来てしまった。
くそう…こんな血迷った事をするハメになったのは、跡部君の提案のせいでもあるのに。

「分かったよ!」

私はタオル回収カゴを置いて、部室掃除へと向かった。



*………*



今日も、疲れた…。
マネージャーの仕事は、部員が帰った後、一時間位は帰れない。
先輩が居た時は、三十分くらいだったんだけど…今は、何分、後片付けは一人でしてるようなものだもんね。
乾燥機が動き終わるまで、私は携帯をいじったり、読み掛けの本を見たりして過ごす。
苛々する分、やっぱり一人の方がいい。いや、きちんとしてくれるなら、人数は居るに越した事は無い。
だから、私がクビに関する権限を持てば、もう少し真面目に仕事するんじゃないかと思うのだ。

ポケットで、携帯が震える。ディスプレイを見ると、メールが届いていた。

“新着:芥川慈郎”

慈郎君からメールが来るのは初めてかも。
きっと、さっきの怪しい…というより、おかしい言動のせいだよね。
携帯を開く。



差出人:芥川慈郎
件名:
…………………
いま部室に居るけど、もう帰った?



うそ!慈郎君、待っててくれてるの?
これは、チャンスだ!



送信先:芥川慈郎
件名:帰ってないよ
…………………
まだ、洗濯中。今行くから、待ってて。



送信、と。
慈郎君がメールを送れる程度に起きてる内に、話をつけなきゃ。



*………*



部室に着いたら、意外にも慈郎君はまだ起きていた。

「ごめん!待ったかな?」

「ううんー…。大丈夫〜…」

慈郎君は、私を見て…いや、私の胸辺りを見て、話を続けた。

ちゃん、今日はどうしたの…?あんな事いいだして。跡部も心配してたよ〜」

跡部君が心配を?じゃあ、さっさと権限を与えてくれ!

しかし、やっぱり慈郎君は、私の血迷った発言で残ってくれたのか。
いや、私が言い出したんだけどさ。本題を言って、乗ってくれるかな?
恥ずかしさを押さえて、今日、言いたかったことを言う。

「…私、Dカップなんだけど…」

「うっそ!まじ、まじ!?」

眠そうな表情や口調から打って変わって、慈郎君が身を乗り出して応じてくれた。
言ってしまおう…。

「で、提案なんだけど…」

「へ?」

「慈郎君が一ヶ月きちんと練習出るたびに、私の胸を触っていい…ってのはどう…!?」

慈郎君は、目をぱちくりさせて私を見つめる…ううーん…これは不発?
そりゃ、私は、可愛くも美人でも無いけどさ。
慈郎君は、頭に手を当てて、苦渋に満ちた表情をした。

「一ヶ月かー…ちょっとハードル高いかも…」

「ええっ?!」

何、一ヶ月で弱音吐いてんだ!
でも、まともに部活出てたのは、皆勤賞に一番近い私の知るかぎりで数える程しか無いしなー…。
ちくしょう、分かったよ!

「じゃ、じゃあ、二週間は…?」

私が仕方なくハードルを下げると、慈郎君は急に明るい顔になった。

「まじ!?本当に!?」

「う…うん」

「なら、明日から頑張っちゃうC!」

うう…さすがに、ここまで乗り気だと、こっちが恥ずかしい。
でも、マネージャー業をすんなり行うためには、慈郎君の協力は不可欠だ。私も腹を据えなきゃ。

「うん。期待してるからね。じゃ、私、仕事あるから、バイバイ」

「え!マネージャーって、そんな遅いの?!」

「うん。他の子は帰ったし…私一人だからねー。あはは…」

「一人?危ねーって!一緒に帰ろうよ。俺、待ってるC〜」

「え…」

マネージャー生活で、部員からこんな気遣いされたのは初めてだ。

「…いいの?あと三十分くらいかかるけど」

「気にしなくてEって。じゃ、待ってるから〜…」

慈郎君は、そういってソファーに沈んだ。
慈郎君って、優しいのかな。
とにかく、待たせちゃ悪いから、早く仕事を終わらせなきゃ。







この後、私が慈郎君を担いで帰るハメになったのは…言うまでも無い。



テ ニ ス の 王 子 様一覧へ
次へ
07/11/12
宜しければ感想を下さいませ♪メール画面(*別窓)