何故か跡部君に、昼休みに呼び付けられた。しかも、あの仰々しい生徒会室に。
何の用だろう?大会はしばらく無いし、練習試合はまだ先だったよね。

まあ、怒られるような事はしてないし、慈郎君は毎日練習に出てるし、やましい事も無いから大丈夫。
あ。慈郎君が練習出てくれてるから…ついに権限くれるのかな?
だとしたら…ヤバイ、にやける!
ありがとう、慈郎君!!
権限貰えたら、我が家の冷凍庫に眠る北海道土産・ジンギスカン用の肉をあげる。

そうと決まれば慈郎君にお和を渡さなきゃと思い、四限終わってすぐに向かったら教室に居なかった。

に聞いたら「トイレじゃないの?」との事なので、お和をに託して生徒会室に向かう。

見てろよ、下っ端。今日から、意地でも仕事して貰うから。

特別教室を通り過ぎて、生徒会室をノックする。

「開いてる。入れ」

跡部君の声が思いの外はっきり聞こえて来て、少しびくついてしまった。確かに開いてる。しかも隙間を伴って。そりゃ、音もよく通る訳だ。

「失礼します」と言いながら戸を開けたら、サンドイッチを食べてる跡部君が目に入って来た。

窓は少し開いていて、この部屋は少しひんやりした空気に充たされている。最近は温かくて異常気象とはいえ、肌寒いのに変だなあと思いつつ戸を閉めようとしたら、跡部君が「完全に閉めなくていい」と言った。

「なんで?」

「食い物の匂いが篭るだろうが。」

「あ。そっか。」

何だ。この肌寒いのに、変になった訳じゃなかったんだ。
指示通りにすこし隙間を開けた状態にして、跡部君の側に歩み寄る。

「どうしたの?マネージャーの権限をくれる気になった?」

跡部君は眉をしかめて「いや。そうじゃねえ」と言って、持ってたサンドイッチを置いた。
なんだ、残念。
跡部君は、さっきより難しい顔になって、こっちを見る。元々、笑顔が多い人ではないけれど。

「…マネージャーの入退部の権限は、与えられない。それを伝える為に来て貰った。」

私の心臓が、胃が、急に重たくなる。

「はあ!?どういうこと?!」

「お前は、上手く憎まれ役をやれない。上手く憎まれ役が出来ない以上、人事管理なんざ出来る訳が無い。だから、任せられねえ。期待させてすまなかった。」

跡部君が珍しく、いや、私に対して初めて謝罪の言葉を述べた。一瞬、何が何だかわからなくなりそうだったけど、すぐに約束してた事を思い出す。

「約束が違う!慈郎君がキチンと練習出たら…」

「それは言った。だが、は上に立つ経験が乏しいだろ。だから、まだ任せられねえんだよ」

跡部君を前にして、あの約束をしていた時を思い出して、体がどんどん熱くなっていくのが分かる。
窓は空いてて、肌寒いのに。
胃も、顔も、脳みそだって熱い。
腹立たしくておかしくなりそうだ。

「ふざけないで!」

跡部君の仕事机を力の限り叩く。それでも、紙ですら動かない。
跡部君は跡部君で、顔色を変えずにこっちを見てる。
それが余計に苛々した。

「私が、どんな思いで慈郎君を説得したと思ってんの!?それに、それにっ…」

正攻法じゃダメだと思ったから、自分の胸を恥ずかしかったけど引き合いに出して…。あそこまで追い詰めたのは、跡部君のあの約束なのに。。

跡部君は、眉一つ動かさない。跡部君には、私の訴えなんて届かないかもしれない。
それでも言わずにいられない。

「私に耳を貸さない子と、どうやって話をしろって!?分からないよ…!」

今まで押さえて来た、今まで目をつぶってた感情が体中を駆け巡ってるような気がする。

「…そうだろうな。だが、話し合うしかねえだろ。あいつらも、はっきり言ってやらねえと分からないと思うぞ。」

跡部君は疲れたように溜息を吐いて、私が分からないと言った事を「やれ」と言う。
その無茶っぷりに、やるせなく虚しくなって…涙が頬を伝う。
どんなに頑張っても、何とか出来ないんだ…。

「…もう、いい。私、辞める…」

涙と鼻水で上手く言えなかった気がするけど、この際、どうでもいい。
疲れた。疲れた。ものすごく疲れた。
これ以上、孤独にマネージャー業なんて出来ない。投げ出すのは心残りだけど。非があるのは、私で、コミュニケーション力不足が原因だ。

方向転換してドアに向かおうとしたら、跡部君に腕を掴まれた。振り払おうと暴れてみる。

「放してっ!」

「落ち着け、!」

「落ち着けない!もう、私じゃ限界だよ!何が何だか、何すればいいのか分からないよ!」

私が思いきり暴れたせいかばさりばさりと、書類が、ファイルが落ちていく。

「冷静になれ!」

跡部君に後ろから抱き着かれたような恰好になり、身動きがとれなくなった。さながら、ジャーマンスープレックスのつかみみたいな恰好では、跡部君を上手く攻撃出来ない。

「聞け。お前一人でなんとか出来ないと判断したから、俺様が助けてやるって言ってんだ!」

「…え。」

「マネージャーの問題は片付かなかったが、は慈郎を説得しただろ。働いた分は、必ず助けてやる。」

…今まで、どんなに訴えても「自分で何とかしろ」の一点張りだったのに。跡部君は、絶対に助けてくれないと思ってた。

「だから、これからも連いて来てくれ。お前が居ないと、締まらねえだろ」

…一年からマネージャーやってて、初めて跡部君に褒められたような気がする。

それとも、ただ単に引き止める為の口実かな。

…それでもいいや…。
最悪の状況から、抜け出る為に、跡部君は協力してくれると言ったんだもの。

信じてあげよう。




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2008/02/17
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