いつも通りに着替えて、いつも通りに部活行って…。
でも、今日からは違うんだ。
跡部君が助けてくれるって言うし、慈郎君に指摘されて以来、また後輩に向かう心の準備もしてきたから…昨日までの私とは違う。

ジャージに着替えてから、校庭をつっきる。いつものような憂鬱さは無い。部に行きたくないとは、思わない。

ふと、校門の方に目を向けたら、慈郎君が鞄とラケットを持って歩いていた。

部室はそっちじゃないけど…寝ぼけてるのかな。

「慈郎くーん!」

呼び掛けたら慈郎君はこっちを見てくれたけど、なんだか困ったような、痛そうな表情をして走り出した。

「慈郎君ーっ!?」

再び呼び掛けたけど、今度は見向きもしないでどんどんスピードをあげていく。
思わず、私も慈郎君を追い掛ける。

変だ。あんなに、胸に興味があったのに。メニューをこなせるようになったのに。きちんと練習出てない時も、授業終わってすぐに帰るなんて事はしてなかったのに。

慈郎君がここに来て、最初からサボるなんて考えられない。

「待って!!」

慈郎君は振り返らない。私の言葉は絶対聞こえてるはずなのに、無視をされてる。

「慈郎君っ!!」

全力で走ってるせいか、段々足が思うように動かなくなって来る。
左足が地面を捉えそこねて、転んでしまった。

慈郎君は校門を出て、なおも振り返らない。

理由も分からない。何も言われない。
何一つ、私に提示せず慈郎君は見えなくなった。

しばらく、動けないで呆然と校門を見ていたら、跡部君が迎えに来た。

「何やってんだ、。今日は、早めに来いっつっただろ」

「跡部君…。慈郎君が帰っちゃった」

「ジローが?」

跡部君も驚いたらしく、眉を吊り上げた。
これまでの事を考えても、慈郎君が帰るなんて異例なのだ。

「何か聞いてねえのか?」

「ううん…。」

跡部君も、私も、首を捻る。
少しの沈黙の後、跡部君が口を開いた。

「…お前、最近ジローとメシ食ってたな。今日は、ジロー、どうしてたんだ?」

「今日は、お和を友達に渡して貰ったから…多分、一人かな」

最近、例のドM男子がうるさいので、は不本意ながらご飯を一緒に食べてるらしい。会話は一方通行で、が全無視を決め込んでるらしいけど。そんなところに慈郎君が入って行くとは思えないし、何より睡眠が好きな子だ。無理に誰かと食べるより、一人でさっさと食べて寝るんじゃないかと思う。

「…そうか。渡した奴は?」

だけど…」

「ふん、アイツか。」

跡部君は携帯を取り出して、耳にあてた。

「俺だ。ジローに弁当渡しただろ。…。なんつって渡した。………。愛想っつーもんがねえな、テメーは。で、ジローはメシ、どうしたんだ。……………。そうか…分かった。じゃあな。」

跡部君は電話を切ると、私に向いた。

「チッ。…見られたかも知れねえな。お前を押さえ付けてるところ」

「えっ…」

見られた?
あの時…。跡部君がジャーマンスープレックスに入る前みたいな拘束をした時?

よく考えたら、胸に近い位置で腕が回されていて、角度によってはモロに触られてるように見えるかも知れない。
慈郎君を思う。

自分が頑張ってるのに、他の人にはやすやすと触らせて…。
やり切れなくなって、やってきた事が無意味に思えて…やる気が無くなって当然だ。

「おい。とりあえず、部員を待たせてんだ。行くぞ。」

「あ、うん。」

部員…わんさか居る、200人に上る部員の練習に待ったを掛けてる。
これ以上待たせたら可哀相だ。

跡部君に従って、コートに急いだ。



コートに着くと、部員と後輩マネージャーがひとところに固まってるのが目に入った。

跡部君はいつもの定位置に私を立たせて、後輩マネージャー達を前に来させた。後輩マネージャー達は訝しそうに、私と跡部君を交互に見る。
跡部君は、私と後輩マネージャー、部員達を見て口を開いた。いつも通り、威厳ありげな自信に満ちた表情は変えずに。

「今日から、本格的にマネージャー教育を図る。お前らも用事があったらじゃなく、こいつらに言え。」

後輩マネージャーの顔が引き攣った。今まで、大した仕事はしてないのに、一気に仕事を申しつけられるのだ。準備もできないだろう。
私や、後輩マネージャーの驚きには構わず、跡部君は言葉を続けた。

「しばらくタオルやドリンクがすんなり出てこなくなるかもしれねえが、精神修業の一環だと思って我慢しろ。以上だ。開始!」

跡部君がいつもみたいに号令をかけると部員たちは各々のメニューに取り掛かって行く。
いつも下準備ばっかりで、最近はこういう場面を見てなかったので懐かしくすら思えた。こんなに壮観だったんだ。
私がひっそり感動していると、跡部君は私達に向いた。

。俺様も練習に行く。こいつらをきちんと教育しとけ。一区切りしたら見に行く」

「う、うん。」

跡部君は後輩マネージャーに「期間は一週間だ。出来るようになれよ」と言って、コートに消えていった。

後輩はぼうっとして跡部君の消えていった方向を見ている。まさか、こんな事になるとは思ってなかったんだろう。

…とりあえず、今まで教えたことをどの位覚えてるのか気になる。

「じゃあ、見てるから、分からない事があったら聞いてね」

一瞬びくつく後輩。
彼女らは、一層、表情を固くした。悲しい事に。

……絶対、覚えてないな。



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08/03/24
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